「空間」としての自動車が生まれていく
こうした構想が現実のものとなると、運転に使っていた時間が別のことに使える時代が来る。
だが、より重要なのは、「自動車を所有しているのに、10%以下の時間だけが使われている」状況を見直す機運がさらに高まるだろう、という点だ。
先ほど、その一環として「カーシェアや乗り合い」を挙げた。だが現実問題として、カーシェアが必要な時間はたいてい同じであり、自動車が空いている時間だけ貸し出すのはなかなか難しい。いつでも快適に借りられる体制を作るには、「自動車が余る」状況にするしかない。
だとすると、乗り合い前提のサービスはありうるが、「自分が使っていない時間、自動車を貸し出す」のはうまくいかない可能性がある、ということだ。
そんな状況を考えると、自宅に自動車を所有したい、と思う人は劇的に減らない可能性がある。
だとするとどうなるか?
EVの価値を上げる、ということが解決策になる。
EVを家庭の補助電源とする、という方法論はその典型だろう。今のEVもそこが重要であったりする。
ではこの先、自動運転が普通のものになったら?
自動車の中はもっと広くなるかもしれない。今までの自動車と同じ操作系である必要はなくなるからだ。そうすると、家の外に「良い閉鎖空間」が生み出される可能性もある。要はEVが「はなれ」になるわけだ。ひょっとすると、スピーカーやディスプレイの配置を改善することで、コンパクトなAVシアターを作れるかもしれない。
そうした世界になれば、これはソニーの得意とするところだろう。
もちろん「走る」ことの快適さもポイントだ。自動運転で交通機関としての自動車が増えると、逆に、自宅に持っていたいのは「走ることが楽しい車」になるかもしれない。
ソニーはそうした部分で差別化できる。長期的にいえば、そんなところを目指しているのではないか。
どちらにしろ、その姿が見えるのは、自動車の姿が変わり、それぞれの用途に合わせて違う価値のEVが生まれるようになった時だろう。まだ最低5年以上先の話だと思うし、自動車産業の裾野の広さを思えば、10年かかっても無理かもしれない。
EV+自動運転を考えるときには、そのくらいの未来に破壊的な変化が待っている、という意識でいる必要があるのだろう。
関連記事
- 「今のメタバース」を生み出した、年間10億台の「ある量産品」
メタバースを生み出したVR HMDに必要なパーツ、技術はどこから来たのかを、西田宗千佳さんが考察する。 - ソニーのEVはどんなクルマに仕上がるか 開発責任者への取材などから予想する
ソニーは2022年春にEV参入を検討するための事業会社「Sony Mobility」を設立すると発表した。はたしてソニーが作るEVとはどのようなものになるのか? 開発責任者への取材などから予想してみよう。 - 目指すは「リアル版AWS」──トヨタの未来都市は何がすごいのか
「リアル版AWSを目指している」――これは、トヨタ自動車が静岡県に建設中の実証実験都市「Woven City」のメディア向けプレゼンで飛び出したワードだ。一体どういうことか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.