勃興するAI版“車検制度” 差別しないAIをどう作る? 海外では「品質保証」が産業に:ウィズコロナ時代のテクノロジー(3/3 ページ)
コロナ過でAIの導入が進む一方で、低品質なAIによるミスも増えている。自動車において車検制度が生まれたように、AIの品質を保証するためのルールの策定が各国で進んでいる。
「AI品質保証産業」の育成に取り組む英国
そして同様の規制が広がれば「AI品質評価」をサービスとして展開することが有望なビジネスになるかもしれない。実際に、AIによる面接評価ツールを開発するHireVueなど、AI監査を実施する企業を子会社化するベンダーも登場している。
この点で興味深い動きを示しているのが英国だ。同国のCDEI(データ倫理・イノベーション・センター)が2021年12月「AI品質保証エコシステム」の確立に向けたロードマップを示す報告書を発表したのである。
CDEIは英国のDCMS(デジタル・文化・メディア・スポーツ省)内に2019年に設置された機関で、AIのバイアスを調査・監督することも活動内容の一つとなっている。今回の報告書では、AIが普及する中での品質保証制度の重要性を説いた上で、AI品質保証の役割やエコシステムの内容、保証サービスの市場としての可能性など広範な論点がまとめられている。
例えば想定されるエコシステムでは、下記のように関連するプレイヤーが整理された上で、次のような役割分担が想定されている。
この報告書で興味深いのは、実際に品質保証サービスを提供する「独立した保証プロバイダー」や、直接的に関係するベンダーやAI導入企業の役割を示すだけでなく、ジャーナリストや認定機関といった周辺プレイヤーの重要性も示されている点だ。
前述のニューヨーク市における条例案でも、バイアス監査の基準や、それを実践できる監査サービスプロバイダーをどう育てていくのか(あるいはそもそも育成可能なのか)の議論が行われていたが、それに対して、まさしく「エコシステム」を形成して全体として対処する方向性を示したものといえるだろう。
報告書では、こうしたサービスの市場性についても整理しているのだが、実際にこの「AI品質保証業界」は、2019年の時点で25億ポンド(約3900億円)の投資を集めていたと報じられている。今後各国でAIの“車検制度”と呼べるような制度を整備していけば、保証サービスの市場はグローバルに発展することになるだろう。
さらに信頼できる品質保証制度が確立されれば、それはAIシステムのさらなる普及を促し、AI業界自体も拡大することにつながる。つまりAI品質保証業界の整備が、国家の競争力に寄与する可能性があるわけだ。
コンサルティングファームの米Deloitte Touche Tohmatsuは、2022年に各国でさらなるAI規制が進むだろうと予測している。それを有効なものにし、AI普及の抑制ではなく推進へとつなげるような品質保証のエコシステムを形成できるかどうかは、多くの企業にとって注目に値する事柄だろう。
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