再びIPOに向かうArmの明日はどっちだ? NVIDIAへの売却失敗で詰腹切らされた前CEOを惜しむ(2/3 ページ)
Armの動向に詳しい大原雄介さんに、ソフトバンクグループがNVIDIAへのArm売却を中止する至った背景を解説してもらった。
サーバと自動車市場の急成長は何が要因だったか
そしてSBG傘下でArmは急速にサーバと自動車のマーケットで目覚ましいシェアを獲得した。
実際SBGに買収された2016年といえば、ArmはまだCortex-A73を出したばかり。CDN(コンテンツ配信ネットワーク)のサーバ向けにトライアルが始まった、というレベルの普及率でしかなかった。それがこの5年で、大手クラウドプロバイダーが相次いで自社のサーバ向けにArmベースのSoCを採用するところまで、明らかに異常とも思えるペースで普及が進んだ。
そのバックボーンになるのは、ソフトウェアエコシステムの充実である。
もともとSBGがArmを買収する際、拠点そのものは引き続き英ケンブリッジに置き、更に英国拠点のエンジニアの数を倍増させると語っていたが、エンジニアの数は実際大幅に増えている(写真3)。
もちろんここにはIPの開発に携わるエンジニアも要るが、結構な割合で増えているのがソフトウェアエンジニアである。こうしたソフトウェアエンジニアがサーバや自動車分野向けのソフトウェアに携わった結果として、急速にArmがサーバや自動車のマーケットで大きな存在感を発揮することになり、これが今後の同社の売上につながっていくことを考えると、SBGによるArmの買収そのものは決して悪い結果ではなかったと思う。
ただそれはシング氏が言うように「利益率を犠牲にして(開発などにコストを回すことで)実現した」という話だから、今後はそこまで急速にエコシステムを展開するのは難しいだろう。この5年間でかなりの投資を行った(結果として成果が出た)から、今後は多少投資を絞ってもさして影響はない、という判断だと思われる。
卵と鶏ではないが、最初にエコシステムに頼らずに大きな投資を行った結果として、今後はエコシステムが投資を行っても問題ないと思えるレベルのプラットフォーム基盤が構築されており、こうなるとArmが投資を積極的に行わなくてもエコシステムが勝手に成長してくれるからだ。
余談になるが、IntelがIntel Foundry Service向けに10億ドルの投資を行うというのも根っこは同じ話であって、今まで存在しなかったところに新たなエコシステムを作りたいと思ったら、最初にある程度の規模のプラットフォームを構築するしかなく、このためにはコストがかかる。
Armはそれを5年掛けて行ったという話で、多分Intelも10億ドルというのは最初の呼び水でしかなく、今後エコシステムを立ち上げるためにはもう1桁多い投資が必要な気がする。
ただArmがこの先どこに向かうのか、という話はまだ見えてきていない。何しろ新CEOであるレネ・ハース氏自身が、「まだ就任して12時間しかたってないから、具体的な今後の戦略はまた時期が来たら説明する」と語ってるほどである。Arm全体としても、今まではNVIDIAによる買収を前提に内部で動いており、これがひっくり返った以上新たな戦略を立て、それに向けての具体的なアクションを策定するまでには相応の時間がかかるのは致し方ないだろう。
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