企業の従業員が“SFを使う”ためには? 「SFプロトタイピング」の実践方法を解説します:「SFプロトタイピング」で“未来のイノベーション”を起こせ!
企業が新しい視点で物事を考えるとき、“SFの力”が役立つかもしれません。そんな新しい思考法「SFプロトタイピング」の実践方法をご紹介します。
こんにちは。SFプロトタイパーの大橋博之です。
この連載では、僕が取り組んでいる「SFプロトタイピング」について語ります。僕がさまざまな企業と共に実践しているSFプロトタイピングの事例はもちろんのこと、企業の先進的な事例、有識者へのインタビューなども加えてSFプロトタイピングの現状や取り組む方法、効果などをレポートします。
連載の内容を紹介しましたが、「そもそも、SFプロトタイピングって何?」という人も多いでしょう。そこで3回にわたりSFプロトタイピングの概要を説明します。最終回の3回目は実際にSFプロトタイピングを行う方法を取り上げます。
- 第1回目:SPプロトタイピングに企業が注目するワケ
- 第2回目:SFプロトタイピングの活用方法
SFプロトタイピングは、どのように実践すれば良いのか?
SFプロトタイピングの取り組み方は大きく2あります。一つは「自分たちでやってみる」こと。もう一つは「SFプロトタイピングの専門家に依頼する」ことです。
自分たちでやってみる方法はさまざまあります。その方法については、出版されているSFプロトタイピングの解説書が参考になると思います(この連載でも、SFプロトタイピングを実践した方々に取り組み方をお伺いして紹介する予定です)。
ここでは僕が行っている「SFプロトタイピングの専門家」としての方法を紹介します。僕はSF作家ではありません。SFプロトタイピングのアウトプットであるSF小説の制作はSF作家に依頼します。僕はファシリテーターとして、議論を導く役割を担います。
【起】準備の段階=METEORITE(ミティオライト)
まずはSFプロトタイピングを行う前の準備です。僕はこの準備段階のことを「ミティオライト=隕石」と呼んでいます。隕石によって “何か”が生まれるインパクトを期待しているので、こう名付けました。
ここではSFプロトタイピングの前提条件を決めます。
目的を決める
何のためにSFプロトタイピングを行うのか、といった内容を決めます。その目的は、前回の記事に書いたように次のようなものがあります。
- 企業や事業部の未来の在り方を考える
- 企業や事業部の未来の新製品、新サービスの在り方を考える
- 人材育成のためのトレーニング
- 企業が考える未来を提示し、リクルートや広報に活用する
テーマを決める
取り上げるテーマを明確化することが重要です。僕が行う場合は、このテーマを企業の事業ドメインや商品、サービスに設定することが多いです。
例えば、自動車メーカーなら「20XX年の自動車」、建築メーカーなら「20XX年の建築」といったように、実際に携わっている仕事の未来をテーマにする方が、リアリティのある議論になります。
未来を決める
未来といっても1日先も未来ですし、100年先も未来です。想定する未来を具体的に「20XX年」と決めます。
参加者を決める
参加者の数は5人くらいが適切です。あまりにも多いと1人が発言できる時間が限られてしまうからです。
同じ部署のメンバーを集める場合もありますし、他部署を巻き込んで社内横断的に行う場合もあります。また、年齢や性別はバラバラの方が多様性が出ます。
開催日時や場所を決める
全員で議論するプログラムは多くて3回ほど実施します。なるべく全員が全ての回に参加できることが望ましいです。
また、場所はリアルの会議室でも良いですし、Web会議などリモートでも良いです。遠方の参加者のみリモートで参加しても問題ありません。
こういった項目を決め、開催を告知して参加者を募ります。
【承】参加者の認識を同期する=CLOCK UP(クロックアップ)
このフェーズでは、自己紹介もかねて参加者の認識を共有していきます。決めた未来に向けて、現在から時間を早めるとどのような未来が来るのかを議論します。つまり、現状から未来像を試算する「フォアキャスティング」です。
少子高齢化や温暖化による影響を受け、ほぼ確定した未来が訪れます。この現状を把握することから始めます。この議論に、専門家やベンチャー企業のトップなどに参加してもらう場合もあります。
ここで議論した「未来」を、「霧」を意味するインドネシア語の「KABUT」(カブト)と呼び、クロックアップして考えられる「訪れるであろう未来」を「KABUT・A」とします。
【転】訪れるであろう未来からの脱却=CAST OFF(キャストオフ)
KABUT・Aでは訪れるであろう未来を議論しました。ここではその議論を崩し、「訪れて欲しい未来」を考えるフィーズです。ここで議論した訪れて欲しい未来を「KABUT・B」とします。
このフェーズでは、参加者は本名を捨てて決めた未来に生きている架空の人物に「変身」します。そのために新しい呼び名を決めてもらいます。僕はいつもZECT(ゼクト)という名で参加しています。また、ここで参加するSF作家は「天の人」となります。つまり「創造主」です。
KABUT・Bの設定と併せて、世界観も議論します。未来は、明るい未来=ユートピアだけではありません。場合によっては暗い未来=デストピアもありえます。
企業がSFプロトタイピングを行う場合、どうしても明るい未来を描こうとします。例えば「自動車が空を飛ぶと、どのような明るい未来が来るか?」といったテーマの場合、車の渋滞がなくなるとか、目的地まで早くに着けるなどの明るい未来を想像しようとします。
ところが、車が墜落してしまう可能性もあります。SFプロトタイピングでは暗い未来を考え、そうならないように準備することにも役立ちます。この暗い未来を、「DARK KABUT」(ダークカブト)と呼びます。
SF作家は、議論されたKABUT・BをベースにKABUT・Aの情報も考慮してSF小説を執筆します。
【結】未来を議論する=PUT ON(プットオン)
SF作家がアウトプットしたSF作品を基に、議論するフィーズです。
ここで行うのが「バックキャスティング」です。SFプロトタイピングの成果物であるSF作品を基に、未来のために今、何をすべきか、どうしなければならないのかを考えます。
【起】からスタートし、【承】【転】【結】をチョイスする
SFプロトタイピングは通常、【起】からスタートして【承】【転】【結】と進んでいきます。
【承】から【転】までは1週間から2週間ほどで行いますが、【結】はSF作家が作品を完成させた後になるので、2〜3カ月後になる場合もあります。
また、【結】は行わずに【承】【転】だけの場合もありますし、【転】だけのケースもあります(まれに【承】だけということもあります)。
SF作家は【承】【転】【結】の全てに参加する場合、【承】【転】だけの場合、【転】【結】だけの場合、【転】だけの場合と柔軟に対応します。SF作家がどう関わるかは、【起】で打ち合わせして決定します。
SF作家をアサインするときに考えること
SFプロトタイピングではSF作家にSF小説を執筆してもらい、成果物としてアウトプットします。SF作家ではなくアーティストにSFプロトタイピングへの参加を依頼する方法もあります。アーティストと一口にいっても、イラストレーターやミュージシャン、デザイナーなどさまざまです。
自分たちでやってみる方法を選んだ場合、一度はSF作家やアーティストに依頼し、自分たちのアイデアがどのようにアウトプットされるのかを理解することをオススメします。
SFプロトタイピングをできるSF作家は現状、さほど多くはありません。SF作家は自分の世界観で小説を書くものです。企業のバイアスが入るSF小説を書くことに抵抗を感じるSF作家もいます。一方で企業とよくコラボしているSF作家もいます。
僕は、コーディネーターとして、適切なSF作家をアサインするように心掛けています。そんな僕が最近よく行っているのは、アマチュアのSF作家に依頼して、初稿に僕が加筆していく方法です。この方法のメリットは、SF作家は自分が書きたい部分だけを書いて、後は「つじつまが合うように何とかして」とムチャぶりができることです。また、自分とは違う発想で物語が書かれてくることで発見もあります。
手間はかかりますが、アマチュアのSF作家がアウトプットした初稿に企業の参加者が加筆する方法も試してみたいと考えています。
SFプロトタイピングに興味がある、取り組んでみたい、もしくは取り組んでいるという方がいらっしゃいましたら、ITmedia NEWS編集部までご連絡ください。この連載で紹介させていただくかもしれません。
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