「歌舞伎でヒーローショーをやりたい」 中村獅童+初音ミクの超歌舞伎「永遠花誉功」ができるまで ニコニコ超会議統括プロデューサーに聞いた(3/5 ページ)
ひさしぶりにリアル上演された超歌舞伎。今回はこれまでの超歌舞伎を壊して作り直したという。どこがどう変わったのか。
絵から抜け出す初音ミク
そうして、ミクさんの存在を、よりリアルに近づけておいて、役の中でミクさんは、実は絵から抜け出した存在を演じるんですね。
横澤 コロナ禍の中で、ミクさんファンや歌舞伎ファンの人たちは、きっと寂しかったんじゃないかと思ったんです。その時に、ミクさんも寂しいんじゃないかと思ったんです。僕は、初音ミクという存在は、「形」だと思っています。でも、そこに作曲家や作詞家が曲を作って、それを彼女が歌って、そこにメッセージが生まれて、聞いた人が元気付けられたり、背中を押してもらったり、その、それぞれのストーリー自体が「形」に魂を吹き込んでいく、それが初音ミクという存在じゃないかと思うんです。それを表現したかったんです。
それで、娘を亡くした母親が、屏風に描かれた娘の姿に思いを寄せて、その思いが娘の姿絵に魂を吹き込み、自分たちを助けてくれるという物語が、ミクさんファンの思いと重なりあうような脚本にしてほしいと頼んだんです。
今回のテーマソングは、初音ミク曲の代表的な楽曲の1つでもあり、大ヒットした「初音ミクの消失」が使われていました。
横澤 今回、どういう楽曲が良いかと考えた時、「初音ミクの消失」が浮かんだんですけど、かなりリスクがあるなと。1000万回再生された楽曲ですから、それだけ沢山のストーリーを持っている曲なんです。それを1つの物語に集約して、みんなが感情移入できるような形にできるのかと。
でも、今回の芝居は、実際に上がってきた脚本を大幅にカットしてる。そのままやると2時間超えるというのもあったんですが、お話を決め込んでいく、こういう話であると説明するような部分を相当カットしました。
そうすることで、物語に余白が生まれて、さまざまな見る人たちの物語を受け止められたんじゃないかと思うんです。それが歌舞伎の面白いところというか、言い切らないんだけど、背景はしっかりあって、そこに見る人たちが勝手に物語を埋めていく、そういう大胆で繊細なところがありますよね。
そういう芝居にすることができたおかげで、「初音ミクの消失」に代表されるミクさんの文化と、荒事に代表される歌舞伎の文化が、ストーリー的にも背景的にもマージできたような気がしてるんです。
それが「わたしは誰かにつくられる物語」というコピーに繋がるわけですね。
横澤 はい。『妹背山婦女庭訓』から想起された、苧環姫としてのミクさんの思いと、現実のというか、みんなが作り上げた初音ミクという物語を重ね合わせたコピーです。それで「つくられる」と現在形にしたのは、やっぱり「今」の物語にしたいなということがありました。
ただ、冒頭のセリフでは「つくられた」と過去形にしています。これから、1つの作られた物語を見てください、ということですね。そして、最後は「つくられる」と現在形で終わります。これからは、ミクさんをみんなで作っていく物語にしてほしいという思いを込めて。
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