「飲み物に何か混入されていないか」をスマホカメラで検出 気泡の形や動きから予測:Innovative Tech
シンガポール国立大学と韓国Yonsei Universityの研究チームは、スマートフォンのカメラのみで開封前の密封されたボトル内の液体内容物に不純物が混入されていないかを検出するシステムを開発した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
シンガポール国立大学と韓国Yonsei Universityの研究チームが開発した「Detecting counterfeit liquid food products in a sealed bottle using a smartphone camera」は、スマートフォンのカメラのみで開封前の密封されたボトル内の液体内容物に不純物が混入されていないかを検出するシステムだ。
密封されたボトルを逆さにし、それによって上昇した気泡の形や動きをカメラで捉え、機械学習で分類して不純物かどうかを予測する。
オリーブオイルを買おうとしてスーパーマーケットに入り、ボトルの中身が本物かどうかを確認したいと仮定する。ユーザーはボトルを反転させ、スマートフォンのカメラでその動きを記録し、撮影された気泡の動きを利用して液体の真偽を確認することができる
オリーブオイル、はちみつ、アルコールなどの液体食品の偽造が多く報告されている。世界保健機関(WHO)は、世界で消費されるアルコールの25%が偽造品であると推定しているという。
これらの事例の急増は、偽造者が粗悪品を混入したり、大量の正規の液体内容物をより安価な代替品に置き換えたりするため、経済的利益を得ることに起因していると考えられる。混入される不純物は、しばしば死亡事故につながる有害な健康問題を引き起こす可能性がある。
しかし、偽造品は容易に入手できる本物の瓶に包装され、工場の基準に従って密封されているため、一般消費者が混入した液体内容を検出することは極めて困難である。ボトルを開けることなく液体の内容物を分析しようとする最先端のソリューションもあるが、専門的で高価な装置を使用するため一般に利用することはできない。
この課題に対してボトルの中に封入された液体内容物の情報を取得するために、一般的なスマートフォンのカメラを利用した液体偽造品検出システム「LiquidHash」を提案する。LiquidHashの基本的な考え方は、ボトル内の気泡の形や動きから液体の性質を推測することだ。
これは液体の特性、特に密度、粘性、表面張力が、気泡の半径、縦横比、気泡が上部に上昇する際の終端速度に影響を与えるためである。よって、観測された気泡からこれらの特徴を定量化することで、異なる液体製品を区別できる。区別するために、ノイズの多い環境下でも気泡の特徴を抽出し、その特徴を利用して不純物混入の液体を分類するために機械学習モデルをトレーニングした。
ユーザーは密閉されたボトルを逆さに回転させながら、スマートフォンのカメラで上昇する気泡を検出し泡の形と動きをスローモーションで記録する。この記録を分析し、画像を処理して、その液体製品が本物か不純物かを判断する。
真偽判定するまでのパイプライン。回転させたボトル内をスローモーションビデオで録画し、録画されたビデオを解析して上昇する気泡を検出する。LiquidHashは気泡を処理し、液体食品が本物か不純物か判断する
実際にLiquidHashを実装し、エクストラバージンオリーブオイル、純粋な生蜂蜜、ウオッカの3種類の本物の液体と8種類の不純物を用いて、条件を変えた実環境実験を行い、その実現可能性を評価した。
複数の参加者に異なる液体の入ったボトルを回転させながら、スマートフォンのカメラで撮影してもらい、500分以上の録画データを収集した。その結果、LiquidHashは最大で95%の検出精度を達成し、その有効性を実証した。
Bangjie Sun, Sean Rui Xiang Tan, Zhiwei Ren, Mun Choon Chan, and Jun Han. 2022. Detecting counterfeit liquid food products in a sealed bottle using a smartphone camera. In Proceedings of the 20th Annual International Conference on Mobile Systems, Applications and Services (MobiSys ’22). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, 42-55. https://doi.org/10.1145/3498361.3539776
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