背筋も凍るITホラー 気付いたら“野良SaaS”のコストが4倍に 「SaaSのお片付け」真っ最中のマネフォに現状を聞く(2/2 ページ)
IT部門が利用実態を把握していない“野良SaaS”の放置により、あるSaaSのコストが数カ月で4倍に膨らんだマネーフォワード。同社が取り組むSaaS整理プロジェクトの全容をキーパーソンに聞く。
社内の全SaaSを地道にリスト化、専門チームの作業内容
立ち上がった専門チームの名前は「SaaS Management Team」。他部署と兼務する人員を含め、数人規模の組織だ。同チームは(1)利用実態や存在を認識できていないSaaSの把握、(2)退職者のアカウント削除など一時的な対応、(3)アカウントの発行プロセス見直し──の3ステップでSaaSの整理を進めているという。
(1)は、会計データやアカウントの申請データ、社内Wikiなどから社内で使われているSaaSの利用実態を探り、契約の詳細や管理者などを洗い出す作業だ。
一部はマネーフォワードiが提供するSaaS管理ツール「マネーフォワードIT管理クラウド」でリスト化。対応していないSaaSはスプレッドシートにまとめた。すでに終了した手順だが、高野CIOは「一番大変な作業だった」と振り返る。
「SaaSのリストを出すのは簡単だったが、管理者が誰なのかを探し出すのが大変だった。Slackのチャット履歴などから“足で探し”、ヒアリングしていった」(高野CIO)
(2)は、リストアップしたSaaSの契約状況などを確認し、退職者のアカウントを削除したり、使われていないツールの契約を削除したりする作業だ。可能なものはマネーフォワードIT管理クラウド上で対応し、そうでないものはSaaSごとに必要な手続きを踏んで削除した。
この作業により、22年に支払うSaaSのコストは、21年に比べて数百万円単位で削減できる見込みという。合わせてSaaSの契約形態の見直しも実施。例えば、1カ月単位で契約しているSaaSのうち、利用継続の見込みが高いものは年単位での契約に切り替え、コストを最適化したという。
続く(3)は、新たにSaaSを使い始めるときの手続きを改める作業だ。マネーフォワードではこれまで、SaaSを使い始めるとき、事業部門長が社員の申請を確認し、承認すれば担当者がアカウントを発行する仕組みを採用していた。
高野CIOによれば、役職者による承認を挟むことで、コスト意識が高まることを期待した仕組みだったという。しかし今回のプロジェクトで、一連の手続きはコスト意識にあまり寄与していないことが分かった。
そこでこれまでの仕組みを部分的に撤廃。SaaS Management Teamが定期的に契約形態などを見直すことを前提に、社員が役職者を通さずSaaSを使い始められるよう制度を変えた。ただし証跡を追えるよう、対象は認証基盤「Azure AD」に対応しているものや、Googleアカウント経由で契約できるSaaSのみ。当てはまらないサービスは、これまで通り運用しているという。
高野CIOによれば、プロジェクトは現在「(2)と(3)のうち、できるところから手を付けている段階」。まだコストの最適化や導入プロセスの改善に着手できていないSaaSもあることから、引き続き(2)と(3)に取り組むという。
「一度整理しても、新しいSaaSがどんどん入ってくるのが現状。継続的に確認するプロセスや体制が大事と気付いた。『1回やって終わり』ではなく。今後もプロジェクトを続けていく」(高野CIO)
「現場にコストを下げたい人はいない」 専門チームを立ち上げた意義
膨らんでしまったSaaSのコストを、地道な作業を交えて削減していったマネーフォワードのSaaS Management Team。今井社長は一連の取り組みが成功した背景について、専門のチームを立ち上げたことが奏功したと振り返る。
「海外だと全社のSaaSの管理や購買などを担当するチームを持っている企業が多い。これまでは自社開発のツールを使う企業も多かったが、今後はSaaSをいかに使いこなすか。ここに人員を割いたとしても、リターンが得られる状況になっていく。チームを作るのは腰が重い作業だが、一方で良いマイルストーンになる」
専門チームを立ち上げたメリットはもう一つあった。今井社長によれば、チームを作ることで現場にコスト削減の動機付けができたという。
「『コストを下げたい』と考える人は、そもそも現場レベルだといない。大抵は「予算の中に納まっていればOK」で、コストを減らしたい人は経営層など事業部の損益計算書を見ている人だけ。チームを組まないとインセンティブが生じない」
SaaS Management Teamは当面の間、これまで同様SaaSの整理に取り組む方針だ。ただし2人によれば、他にも取り組みたい業務があるという。それはSaaSの費用対効果の改善だ。既に導入しているツールとの連携などを検討し、より効率的なSaaSの使い方を模索したいという。
「プロジェクトを通して、みんなが『取りあえずSaaSを導入して取りあえず使っている』ことが見えてきた。より有効な使い方を模索することで、投資対効果を高める余地があると考えている」(高野CIO)
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