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“量子の技術”を使った次世代CT、AIでCT撮影を自動化、IoTでつながる医療機器――進化する医療の現在地を追う!

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 2022年、日本の医療が新たなステージに突入した。これまで約25年間に渡って検出器の素材の進歩がほぼ止まっていたCT(Computed Tomography:コンピュータ断層撮影)の分野で、画期的な技術が実用化された。

 それが「フォトンカウンティングCT」だ。「量子」を扱う技術を活用しており、CT画像診断を一新する力を秘めている。電気ノイズがなく高解像度のデータを短時間で撮影できる他、従来のCTでは実現できなかった体内組織の成分の違いを検出して表示する機能もある。

 「将来、全てのCTはフォトンカウンティングCTになるでしょう」――この技術への期待と今後のCTの変革をこう予見するのは、欧州で最大級の規模を誇るオランダのエラスムス医療センターに勤めるガブリエル・クレスティン教授だ。

 フォトンカウンティングCTの技術を世界で初めて実用化(※1)したのが、ドイツの大手電機メーカーであるSiemens(シーメンス)の医療機器部門から独立したSiemens Healthineersだ。今回はこのフォトンカウンティングCTの仕組みや医療技術の可能性に迫っていく。

量子の技術を使った次世代CT技術 フォトンカウンティングCT

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シーメンスヘルスケアの田中秀和さん(ダイアグノスティックイメージング事業本部 CT事業部 プロダクトマネージャー)

 フォトンカウンティングCTは、その名前の通りフォトン(光子)を数えることで体内の様子を画像化する技術だ。光子などの素粒子や原子をまとめて量子と呼ぶため、量子に関する技術といえる。

 フォトンカウンティングCTについて、Siemens Healthineersの日本法人シーメンスヘルスケア(東京都品川区)の田中秀和さん(ダイアグノスティックイメージング事業本部 CT事業部 プロダクトマネージャー)に説明してもらった。

従来型のCTより高解像度の画像を撮影 被ばく量の低減も可能に

 従来のCTはX線が体内を通過して検出器に入ると、X線の強度に比例した可視光に変換して、さらにそれを電流に変えて画像化していた。可視光は四方八方に飛び散るため、一定の間隔で隔壁を設けて光の離散を防いでいたが、この隔壁があることでそれ以上解像度を上げることが難しかった。

 一方でフォトンカウンティングCTは、X線を構成するフォトンの粒一つ一つのエネルギー値を特別な半導体で検出し、電流に変換して画像化する仕組みだ。可視光に変換しないためエネルギーの損失がなく、隔壁もいらないので解像度を上げられる。

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従来型CTの仕組み。画像上から降ってきたフォトンを、X線→可視光→電流に変換する(クリックで拡大)
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フォトンカウンティングCTの仕組み。フォトンをX線→電流に直接変換できる(クリックで拡大)

 従来の「X線→可視光→電流」という3工程から、「X線→電流」の2工程に減ることで結果的に放射線の被ばく量も減らせる。

 被ばく量の低減に関しては実際に臨床結果も出ている。従来型のCTで副鼻腔を撮影した際の被ばく量は0.2〜0.8mSv(ミリシーベルト)(※2)に対して、フォトンカウンティングCTは約0.0063mSvと圧倒的に少ない。この数値は日本国内で1日生活したときに被ばくする線量(※3、※4)と同程度だ。

 さらにフォトンカウンティングCTでは、半導体の画素を細かくすれば(狭小化)、高解像度の画像を得られるので、従来のCTでは見られなかった細部を高精細な画像で確認できる。例えば、人体の中で最も小さい骨である耳のアブミ骨を従来型CTで写してもぼやけていたが、フォトンカウンティングCTならくっきり表現できる。

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中央が従来型CT、右がフォトンカウンティングCTで撮影した画像。画像がくっきりしているのが分かる(クリックで拡大)

 このように、CTの課題を解決する理想的な技術として、世界各地の研究機関や企業がさまざまな素材を使用して研究を進めてきた。しかし実用化まで至らなかった理由の一つが、フォトンを検出できる半導体がなかったことだった。

特別な半導体を開発したのは、なんと日本企業だった

 そんな袋小路に入った状況を打破したのは、なんと日本企業だった。それがX線やガンマ線といった放射線を計測する「CdTe半導体検出器」を製造するアクロラド(沖縄県うるま市)だ。同社のCdTe素子は食品の異物検査から、天文衛星に搭載して天体が発するX線を観測する宇宙物理の分野にまで使われている。

 Siemensはこの技術に将来性を見い出し、2012年にアクロラド社を傘下に収めてフォトンカウンティングCT用の半導体の研究を加速した。その後、2014年に複数の研究機関にプロトタイプ機を納入し、2020年までに100編超の学術論文によるエビデンスを得た。

 そして2022年1月26日、フォトンカウンティング検出器を備えたSiemens Healthineersの次世代CTが日本で製造販売の認証を受けた。

CTでMRIの一部機能を代替できる「スペクトラルイメージング」

 Siemens Healthineersの次世代CTはフォトンカウンティングCTの技術に基づいた実用的な機能を多数盛り込んでいる。例えば、首から腰までの撮影を1秒程度で終えてしまう。そのため、撮影時に呼吸を止めるのが難しい人でも難なく撮影できる。

 最大の特長が「スペクトラルイメージング」領域の表現を実現した点だ。従来型CTは体内の内部構造を画像で描写するもので、例えば脚の骨が骨折しているといった様子の確認にとどまっていた。しかしフォトンカウンティングCTなら骨折した部位の周囲に出血があるといった状態まで可視化できる。これはフォトンを直接検出できるため、個体や液体など素材の違いから起きる差異を表現できるからだ。

 血液や体液など体内の水分を検知するのは、これまでMRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像)が得意な分野だった。しかしフォトンカウンティングCTなら、一度の撮影でMRIの機能の一部を補える。ただしMRIの全てを代替できるわけではなく、医師や技師の判断で適切な装置を選ぶ必要がある。

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左がフォトンカウンティングCTで撮影した画像。色付きの箇所は骨の中の成分を表現している(クリックで拡大)

Siemens HealthineersとCTの深い歴史

 このように多様な特長を持つフォトンカウンティングCTを生み出したSiemens Healthineersは、CT画像診断機器で世界トップクラスのシェアを誇っている。その歴史は古く、X線の発見でノーベル賞を受賞したレントゲン博士にX線管を提供していたのが同社の前身に当たる企業だった。

 1895年にX線が発見された翌年にはSiemens Healthineersの前身であるシーメンス&ハルスケ社とライニガー・ゲバート&シャール社が医療用X線装置の工業生産をスタート。1976年に同社が開発したCTが臨床用CTとして認証を受けたことが、今日に至るCTの歴史のはじまりだった。

 Siemens Healthineersは、こうした脈々と続くイノベーションの先頭を走ってきた。同社は6万人超の従業員を抱え、世界70カ国で事業展開しながら最新技術の研究開発に取り組んでいる。例えばAIを搭載した製品は、2022年8月時点で既に60を超える。これは売上高の35%を研究開発に投資してきた成果だ。

 この姿勢を象徴するのがSiemens Healthineersの社名そのものだ。Siemensは2016年に新ブランドとして同社を立ち上げた。そこには「優れたエンジニアリング(Engineering)とパイオニア精神(Pioneering)により医療(Healthcare)の発展に貢献する」という目標を込めている。

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シーメンスヘルスケアの桜井悟郎さん(執行役員 ダイアグノスティックイメージング事業本部本部長)

 「Siemens Healthineersという企業は医療分野において『次の時代に必要な技術を読む力』が優れているといつも感じています。そこに集中して投資することで、他社に先んじて10年先の技術を実現しています。今回紹介したフォトンカウンティングCTもその一つです」――こう話すのはシーメンスヘルスケアの桜井悟郎さん(執行役員 ダイアグノスティックイメージング事業本部本部長)だ。

AI、クラウド、IoT――Siemens Healthineersの先端技術

 Siemens Healthineersは医療業界の流行を先取りする技術や製品を次々に送り出してきた。CT検査の領域ではAIを活用したソリューションを提供している。AIで撮影作業を自動化するサービスや、膨大な撮影データをAIで自動解析して疾病の疑いがある部分を抽出するサービスなどだ。もちろん最終的な診断は医師が下すが、医師や検査技師の作業を大幅に削減できる。

 さらにクラウドを活用した読影(CTなどで撮影した画像を見て診断する作業)の支援サービスも手掛けている。大量の撮影データを医師が一人で読み取るのは非効率だ。そこで、クラウド経由で各地の医師や専門家に作業をアウトソーシングすることで作業の負担を分散する効果がある。

 また効率的な病院経営をサポートする手段として、病院の機器にIoTセンサーや測定装置を取り付けて稼働状況を一元管理する製品も手掛けている。これを使えば稼働率が低い機器、つまり有効活用できていない資産を生かす方法を検討できる。

 検査方法にも新たな風を吹き込んだ。CT装置をタブレット端末で操作したり撮影データを確認したりできるようにしたのだ。ハイテクな機器が多い医療業界だが、検査は機器の近くで操作する手法が主流でタブレット端末の活用は進んでいなかった。しかしタブレット端末を取り入れたことで、例えば新型コロナウイルス患者とは違う部屋から検査をして二次感染を防ぐ効果があった。

「病院が『医業』としてビジネスを成功できるよう支援する」

 こうした新しい医療技術を実用化してきたSiemens Healthineersは、「ヘルスケアを、その先へ。すべての人へ。」というパーパスを掲げている。これは医療分野で常にブレークスルーをもたらし続け、顧客や患者にとって目に見える成果を提供することを目指す声明のようなものだ。

 Siemens Healthineersの顧客、つまり医療機関と患者に対する成果とはどのようなものなのか。日本の場合、医療の質やレベルは高い一方で、最先端のデジタル技術やイノベーションを取り込む動きは他の先進国に比べて遅いと桜井さんは指摘する。さらに業務の効率化やインフラ整備といった病院の経営面に課題がある施設が多いと桜井さんは話す。

 「病院ではデジタルを活用した変革が急務であり、私たちはそれらを支援できる立場にあります。そのために医療のアンメット・メディカル・ニーズ(いまだ有効な解決方法がない医療ニーズ)がどこにあるのか、医療が向かう先はどこかといったマーケットインの視点を持って研究開発を進めていきます。そして優れた医療機器を提供するだけでなく、多くの病院が『医療』だけでなく『医業』としてビジネスを成功できるよう支援します。こうしたビジョンに賛同して頂ける方がいたら私たちにお声掛けください。一緒に医療の未来を創っていきましょう」(桜井さん)

 常に先端医療の一足先を走るSiemens Healthineersは、今後も注目するに値する企業だ。興味を持った人は同社のWebサイトを見れば、次に生み出す医療の未来の姿を垣間見られるはずだ。


※1 Siemens HealthineersのフォトンカウンティングCT技術を使った製品を、米食品医薬品局が承認した際のプレスリリース
※2 A national survey on radiation dose in CT in The Netherlands. 2013 Aug; Insights Imaging(2013)4:383-390を参照のこと
※3 日本国内での1日の被ばく線量は環境省「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(平成30年度版)」に基づく
※4 A national survey on radiation dose in CT in The Netherlands. 2013 Aug; Insights Imaging(2013)4:383-390を参照のこと


提供:シーメンスヘルスケア株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia NEWS編集部/掲載内容有効期限:2022年9月10日

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