被害者の心拍から「いじめ」を検出できるのか? 福岡大が検証:Innovative Tech
福岡大学大橋研究室の研究チームは、被害者の心拍情報から主観的なストレスを検出してハラスメントを特定するシステムを提案した研究報告を発表した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
福岡大学大橋研究室の研究チームが発表した「心拍情報に基づくいじめ検出手法の一検討」は、被害者の心拍情報から主観的なストレスを検出してハラスメントを特定するシステムを提案した研究報告だ。
ここでいうハラスメントとは、俗に言う「いじめ」行為であり、殴る蹴るなどの身体的攻撃、罵倒や嫌みなどの精神的攻撃、人間関係からの切り離し、セクハラ、パワハラ、カスハラなどカテゴリーも多岐にわたる。対象も小学生から社会人、高齢者まで広範囲といえる。
いじめの早期発見は難しい。暴力などのあからさまな事象を目撃できれば分かりやすいが、微妙な嫌がらせやずる賢い攻撃だと分かりにくい。そのため、第三者がその行為を目撃してもいじめか判断できないケースも多々ある。また被害者本人もいじめられていると判断できないケースもあるだろう。
このことからも、いじめは被害者の主観的体験に基づいた曖昧な事象だというのが分かる。研究ではいじめを、「いじめ防止対策推進法」の定義をもとに、「当該児童が、一定関係にある者からの行為に対して心身の苦痛を感じるもの」として取り扱っている。
研究では、このような困難な課題に対し、被害者の心拍情報から主観的なストレスをもとにしたハラスメント検出システムを提案する。具体的には、被害者の心電図(Electrocardiogram、以下ECG)を取得し、ECGから抽出した心拍変動の特徴量を用いていじめの有無を検出する分類モデルを構築した。
実験では、主観ストレスとモデルの分類精度の相関、高い主観ストレスの被験者のデータによるモデルの分類精度の2項目を評価した。実験では男性12人(大学生、大学院生)を対象に、市販の胸部型心拍センサーを装着しながら、VR(バーチャルリアリティー)でいじめ被害の映像(厚生労働省が提供しているハラスメント被害体験動画)を体験してもらった。参加者には、各動画の視聴後に主観ストレスのアンケートに答えてもらった。
実験結果より、VR動画を視聴した主観ストレスの高い被験者のデータによるモデルは、分類器で精度(F1score)75.6%を示し、かつ主観ストレスと分類精度に強い正の相関が見られた。このことから、参加者の主観的な評価に即したストレスを検出できることが確認された。
今後は、性別や年齢の幅を増やしたテスト、分類精度の向上を課題としている。
出典および画像クレジット: 上野 貴弘, 大橋 正良. 心拍情報に基づくいじめ検出手法の一検討. 情報処理学会, 研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI), 2022-HCI-199, 25, 1 - 6, 2022-08-15
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