2100年までぶっ飛ぶ――日本科学未来館がSF作品を創作 参加型イベントで「SFプロトタイピング」を使ったワケ:SFプロトタイピングの事例を紹介(3/3 ページ)
日本科学未来館が「未来の暮らし」を考えるイベントを開催しました。2100年という遠い未来を描くに当たり、SFプロトタイピングを活用しています。同館の科学コミュニケーターに、イベントの背景を取材しました。
自己紹介から未来ガジェットを作り、登場人物から他者の視点を生む
ワークショップでは、アイスブレークが未来ガジェットのアイデア出しになっていました。ここにファシリテーションのポイントがあります。
「最初から『では未来ガジェットを作ります』というのではなく、初めて会う人のアイスブレークにしようと決めました。自分のプライベートなことが未来ガジェットになるのは面白いのではと思ったからです」(宮田さん)
「振り返ってみると、未来ガジェットを作ることが少し難しいと思いました。時間が限られている中で、質問し過ぎるとキーワード候補が増えるのでなるべく抑えなければなりません。その中で出てきた言葉は、ありふれたものが多かったかなという気はします」(三澤さん)
未来ガジェットだけで2100年を考えるのではなく、登場人物まできちんと考えたのはなぜでしょうか。そこには宮田さんの思いがありました。「自分ではない他者の気持ちになって未来を見る、想像して課題を探るということを大事にしたかったからです」(宮田さん)
時間が限られているため深堀りはせず、未来ガジェットと登場人物を決めるというシンプルな構成にしたそうです。また、6人の登場人物を考えることで多様性が出てくることを狙っていました。
最後の工程では未来ガジェットがどのような社会でどう使われ、そして主人公はどうなるのかを考えました。「登場人物を通して社会の課題を考え、世界観の解像度を上げていこうと考えました」(宮田さん)
登場人物が未来ガジェットに対してポジティブなのかネガティブなのか、それは何故なのかを整理することで、その世界が抱える課題が浮き彫りになるだろうと考えたそうです。そして、どうすれば解決でき、解決した先にある世界はどう変わっていくのかを考えるよう導くのが目的でした。
そうして生まれた大まかな物語を起承転結に落とし込んでいきました。
「物語に落とし込む工程がうまくいくか不安はありました。でも、いざ進めてみると参加者の協力もあってスムーズにできました。しかし別のメンバーでやったときにも上手くいくように、ファシリテーションのスキルアップが必要だと思いました」(三澤さん)
「やはり、SFショートストーリーを作る部分に体力を使いました。とはいえ登場人物を作り込んでいたので、登場人物を動かすことで物語にすることができました」(宮田さん)
SFプロトタイピングはコミュニケーションの方法として有効
全体を通してスムーズに進んだ今回のワークショップですが、他にやってみたかったことや今後取り組む際に改善したいこともあるでしょう。お二人それぞれに聞いてみました。
「起承転結で作った物語を演劇の台本にして、寸劇をしたかったというのはあります。そこまでやれば参加者も達成感があったと思います」(宮田さん)
「イベントとして良い記憶として体験を持って帰ってもらいたかったと思っていました。私たちとしては成果のあるものになったと思いますが、『あれは何だったんだろうね』で終わるともったいないです。今後は分かりやすい楽しさを提供したいと考えています」(三澤さん)
最後にSFプロトタイピングの可能性を教えて頂きました。
「ユートピアでもディストピアでも良いというのがSFだと思います。2100年は今と全く価値観が違うと思います。そうした未来を想像するために、ファシリテーターがうまくリードする必要があるでしょう。そのコミュニケーションの方法として、SFプロトタイピングなら深い部分に近づける手法だと思いました」(三澤さん)
「僕は企業や行政にとどまらず、もっと広く科学コミュニケーションの場面でSFプロトタイピングを生かせる機会が多いのではないかと思っていたので、第一歩として試せたのは良かったです。誰でも巻き込めるし、全然違う人の視点になれるので、誰一人取り残さない社会を作っていくための話し合いに向いているという実感も得られました。未来への発想をぶっ飛ばすのは、科学コミュニケーションとしてやり方を工夫できると思っています。今後も間口を広げて取り組んで行きたいと考えています」(宮田さん)
日本科学未来館はその名の通り、科学の未来を提示する施設です。SFプロトタイピングとも親和性が高いといえるでしょう。実際に館内では、微生物と人間が共生する未来について考える展示の題材にSFプロトタイピングを取り上げており、SF小説「ココ・イン・ザ・ルーム」(著者:青山新)の冊子を置いています。小説はネット上でも公開しており、こちらのPDFファイルで読めます。
今回、同館では初めてSFプロトタイピングを活用してのワークショップを実施しました。参加者のうちSFプロトタイピングを知っていたのは約半分でしたが、SFプロトタイピングに興味を持っている人は着実に増えていると実感します。今後はいろんな場面でSFプロトタイピングのワークショップが行われるでしょう。
SFプロトタイピングに興味がある、取り組んでみたい、もしくは取り組んでいるという方がいらっしゃいましたら、ITmedia NEWS編集部までご連絡ください。この連載で紹介させていただくかもしれません。
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