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コラム

登場から約半世紀 世界初のギターシンセ「GR-500/GS-500」 当時の関係者に聞く“開発秘話”(2/3 ページ)

「シンセサイザー」という言葉を聞いて何を連想するだろうか。70年代にロック少年だった筆者は、モーグ博士、キース・エマーソン、冨田勲、リック・ウエイクマンといった名前を思い浮かべる。だが、もう一つ、記憶の片隅に忘れられない存在がある。

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弦の振動から制御信号を検出する難しさ

 GR-500/GS-500は、ローランドの創業者である梯郁太郎氏の肝いりで誕生した。当時のアナログ・シンセは、CV/Gate 方式という音の高低を制御する信号と鍵盤のオン/オフを表す信号の組み合わせで電子音を発振していた。

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シンセ音源のGR-500にギターコントローラーGS-500を接続して演奏する。アナログ・シンセの操作を知っていれば音創りは可能

 鍵盤であればオン/オフという形で明確な信号を出すことができる。しかし、ギターの場合は、常に無段階に強弱が変化する弦の振動から制御信号を検出しなければならない難しさがある。

 「弦の振動から音程を検出し、それを電圧に変えるというのがギターコントローラーのキモになります。正確な音程を拾うためには、聴感上聞こえていない周波数を検出する仕組みが必要です。例えば、6弦の音として人間が主に聞いているのは倍音である約166Hzです。しかし、実際の弦が発する周波数は約83Hzです。音程を取るためにはこの周波数を正確に拾う必要があります」(植野氏)

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元ローランドのプロダクト・スペシャリストの植野アイク氏、マーケティング他担当として日本のみならず世界でGR-500/GS-500の普及に奔走

 音程の基礎となる周波数を正確に拾うためには、ギターの性能がものをいう。弦の周波数を正確に取得するために、ネックの中にはトラスロッドが3本仕込まれている。ネックに変な振動や余計な倍音が発生しないように強化することが目的だ。通常のトラスロッドは1〜2本だ。

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ヘッドにはトラスロッド・カバーがないので、ネックの調整ができない。3本仕込まれているので「反らない」という前提

 また、ピックアップも大切な要素だ。ギターコントローラーGS-500には、3つのピックアップが搭載されている。ブリッジに近い方から、シンセ用のピックアップ、ギター用ピックアップ、マグネットピックアップと並ぶ。このギターを製造するために、ローランドは、富士弦楽器製造と組んで合弁会社である富士ローランドを設立した。

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ネック寄りにマウントされた黒い正方形のボックスが、磁力の力で弦の振動を増幅させて、サスティーンを得るためのポリフォニック用ピック・アップ

 「試作段階では、テープレコーダーのテープヘッドを6個並べて流用していました。原理は同じですし形も似ています。音源は、System700といったローランドのシンセを使っていました。ちなみに、GS-500のネックはトラスロッドで反りを矯正する仕組みがありません。3本も入っているので反らないという前提です。だから重たくなりました」(植野氏)

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GR-500のコントロールパネル。ギター出力を含め5つのブロックで音を創ってリアパネルの各端子に送る様が可視化されているので、わかりやすい
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5つの各セクションの音は出力レベルを含め独立した3つのチャンネル、ミックスアウトにセレクトすることができる

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