消費者不在の「デジタルプラットフォーム叩き」は国民にメリットがあるのか:小寺信良のIT大作戦(2/2 ページ)
2016年辺りから政府の中でも、GAFAなど国外のデジタルプラットフォーマーを「脅威」と見なすようになった。デジタルプラットフォーマーの問題を語るには、事業者の保護と、消費者保護の両方のバランスで見る必要がある。一体どういうことか。
「アカウント停止」でさよなら、でいいのか
11月中旬、違法なAmazonギフトのせいで、Amazonのアカウントが凍結された話がネットで大きな話題となった。これは消費者側に非はなく、誰にでも起こりうる話で、多くの利用者が恐怖した。
この件を、単純に違反ギフトを使ったならアカウントが凍結されるのは当然だろうと誤解している人も多い。違反ギフトだと知ってて使ったのならそうだろうが、違反ギフトを誰かからプレゼントされて、それを知らずに使ったという話である。ギフトコードは単なる番号の羅列であり、利用者はそれが違反なのかを判断する材料はない。
アカウントにギフトコードをチャージする段階でなんらかのチェック機構があるなら、その時点でわかったはずだ。だが、チャージする段階ではそのまま登録できてしまったようだ。
Amazonで買い物してギフト券から支払いをすると、ギフト券は期限が早い順に消費される。つまり他にもチャージしていたギフト券があり、それから先に消費されると、違反コードはアカウント内に蓄積された状態になる。そしていつの日かそれが使われた段階で、時限爆弾のように破裂して利用者のアカウントが止まるので、利用者はなにが原因で停止されたのか分からない、という話なのである。
Amazonのアカウントが凍結されると、それまでチャージしてあった他の健全なギフト券残高も没収される。またKindleで購入した書籍は全て読めなくなり、Amazon Photoにアップした写真もアクセス不可となる。つまり、購入したり預けてあった個人資産が、一瞬にしてパーになるというリスクがある。
アカウント凍結によりAmazonとの接点もなくなってしまうため、それ以降の交渉手段がなくなってしまうのも、消費者保護という観点からは問題があるように思える。また消費者センターも頼りにならず、弁護士もさじを投げるようなタイプの案件であるようだ。
本来処罰されるべきは、違反ギフトを発行した者である。それを消費者に十分な説明もなく、一方的に責任を負わせているという事象が、「デジタルプラットフォーム取引透明化法」の射程に入っていないというのはおかしい。現在この法では、消費者に対しての開示事項として、検索に関しての公平性しか見ておらず、消費者保護とのバランスが非常に悪い。
消費者がデジタルプラットフォーマーに求めるもの
個人的な話になるが、筆者は海外の通販事業者からモノを買う際には、可能な限りPayPalを経由するよう心掛けている。もし詐欺やニセモノなど不当な取引に巻き込まれた際に、いち個人がよく知らない事業者に対して、英語や中国語で直接クレームを入れてやりとりするのは、並大抵のことではないからだ。PayPalを経由していれば、苦情を日本語でPayPalに申し立てることで、払い戻しなど事業者との面倒な交渉はPayPalが代行してくれる。
われわれ消費者がデジタルプラットフォーマーに期待するのは、そういうところも大きいのではないだろうか。例えばアプリにしてもゲームアイテムにしても、何かトラブルがあって払い戻しを求める際に、名も知らぬアプリデベロッパー相手に英語や中国語で何週間もかけてやりとりした揚げ句、日本と現地では法律が違うみたいな話で逃げられるのであれば、おちおちアプリなど買っていられない。
そこはデジタルプラットフォームが間に入って、払い戻しなどを日本の法と慣習に基づいて保証してくれるからこそ、われわれは多彩な事業者が提供するモノやサービスを購入できる。このあたりの評価も、きちんとなされるべきであろう。
例えばApp Storeは、消費者からの返金リクエストの受付期間を他社よりも長い60日としている。これはクレジットカード決済だった場合、不当な課金を請求が来て初めて知るといったケースもあることから、消費者保護としては妥当である。もし受付期間が短かったら、請求が来てから気づいてもあとの祭りで、あとは個人でデベロッパーと交渉していくという事になる。
この点はもっと評価されてもいいはずだが、レビューにはさらりと事実のみが書かれているだけでさらなる改善要求が突き付けられるという、「叩き」になっている。
こうしたプラットフォーマーに対する事業者保護については、以前もお伝えしたように内閣官房デジタル市場競争本部事務局の「モバイル・エコシステムに関する競争評価」でも行なわれており、同じような規制路線を省庁を変えて二重三重にやる意味がどこにあるのか。もう少し隣で何をやってるのかちゃんと見ろ、という話である。
レビューとは、良いところもきちんと評価して競争を促すという役割もあるはずだが、基本的に「叩き」にしかなっていない本レビューは、プロレビュワーである筆者が点数を点けるならば、赤点である。まだ1回目で勝手が分からないということかもしれないが、少なくとも「モニタリング会合」の委員に消費者代表がゼロという座組から、もう一度考え直してはどうだろうか。
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