“SF思考”でアイデアを発散 議論ツール「SFプロトタイピング」で考える100年後 対話を広げるコツは?:SFプロトタイピングに取り組む方法(1/3 ページ)
“SF思考”でアイデアを広げる議論ツール「SFプロトタイピング」。対話イベント「100年先の自動運転」から、取り組み方をひもといていきます。
こんにちは。SFプロトタイパーの大橋博之です。
この連載では、僕が取り組んでいる「SFプロトタイピング」について語ります。SFプロトタイピングとは、“SF思考”で考えた未来を基にSF小説などを創作して、最終的に企業のビジネスに活用したり、未来から逆算して現在すべきことを考えるメソッドです。
これまで、東京都下水道局や農林水産省の実践事例や、SF作家の樋口恭介さんへの取材を通してSFプロトタイピングを紹介してきました。みなさん口をそろえて「簡単なディスカッションでもいいから取り組んでほしい」と話します。
しかし実際に取り組むといっても進め方に悩むケースが多いでしょう。そこで今回は、SFプロトタイピングの進め方や気を付けたい点をご紹介します。取材したのは、日本ファシリテーション協会の取り組みです。
同協会は、北海道函館市で毎年夏に開催するサイエンスフェスティバル「はこだて国際科学祭」で、SFプロトタイピングを使ったプログラムを主宰しました。そこで使った具体的な手法やファシリテートの仕方を、日本ファシリテーション協会の石川肇さんと南部優子さんにお伺いしました。
「未来の民主化」目指す 市民が未来社会と科学技術を考える
大橋 最初に日本ファシリテーション協会について教えてください。
南部さん(以下、敬称略) 日本ファシリテーション協会は、ファシリテーションの普及が目的のNPOです。2003年の設立当初、世間では「ファシリテーション」という言葉はほとんど使われていませんでした。それがいまでは全国1200人ほどの会員が各地域でワークショップを開くなどの活動をしています。
大橋 かなり早い段階からファシリテーションに注目されていたのですね。では、今回SFプロトタイピングに取り組んだ経緯を教えてください。
南部 協会内に「科学技術社会実装研究グループ」という集まりがあり、メンバーの石川さんが「SFプロトタイピングという手法があるよ」と提案したのがきっかけでした。
石川さん(以下、敬称略) 科学技術社会実装研究グループは19年にスタートしました。「未来の民主化」を目指して、未来社会と科学技術について市民を交えて考えています。イギリスなどでは政府が予算を出して取り組んでいます。
南部 私たちの活動とは規模が違いますけどね(笑)。
石川 私がSFプロトタイピングを知ったのは20年です。自動操船ヨットの開発を進めている企業everblue technologiesさん(東京都調布市)とSF作家・樋口恭介さんとのトークイベント「SFプロトタイピングが紡ぐ、自動操船ヨットのある未来」に参加したときのことでした。
大橋 イベントに参加してSFプロトタイピングの存在を知ったのですね。
石川 そうです。everblue technologiesさんに興味を持っていて、調べていく中でSFプロトタイピングの試みを知りました。イベントに面白い発想を広げられる人たちが多く参加していたこともあり、SFプロトタイピングの可能性を感じました。
大橋 科学技術社会実装研究グループの活動で、SFプロトタイピングが使えると考えたわけですね。
石川 はい。一般的なディスカッション形式で進めようと考えていましたが、何かツールがあれば形式知化できるのでツールを探していました。そこにSFプロトタイピングがマッチしたわけです。
SFプロトタイピングを活用したワーク設計 「私たちも手探り状態」
大橋 それでは、SFプロトタイピングをはこだて国際科学祭で実施することになった経緯を教えてください。
南部 同科学祭に携わっている日本ファシリテーション協会の会員が参加を提案したのが始まりです。子どもから大人まで一般の幅広い層が参加するので、「SF」という言葉が入っていると、より楽しそうな催しだと思ってくれると期待しました。また若い人たちが入ると思考が“飛んで”ワークも面白くなると思い、プログラムを組み立てました。
石川 私がプログラムの原案を出し、みんなで設計しました。21年と22年にテーマを変えて2回実施していますが、枠組みは共通です。2時間のイベント内で、冒頭に技術的な情報をインプットして、それからワークをする流れです。
大橋 21年のテーマは「想像&創造してみよう!自動運転のある生活・社会」でしたね。
石川 最初の参加者への技術情報インプットは、大阪大学と京都大学が取り組む「公共圏における科学技術・教育研究拠点」(STiPS)の技術紹介冊子(閲覧はこちら)を使わせてもらいました。
プログラム後半では、登場人物を設定して物語を作るワークを取り入れました。舞台は架空の街ですが、誰が見ても函館市だと分かる、でも無関係の街だという建前で進めました(笑)。 そこに住む4人家族を主人公に、自動運転にまつわる未来の生活を考えてもらいます。
大橋 コロナ禍ということで、オンライン開催でした。プログラムの告知ページでは定員40人程度と、かなりの人数を想定されていたのですね。
南部 申し込みは30人ほどで、実際に参加できたのは20人くらいでした。参加者を4グループに分けて、Web会議ツールのブレークアウトセッション機能を使って議論をしました。各グループに協会のファシリテーターが2人付きました。
PCに不慣れな人やワークショップ初体験で戸惑った参加者がいるなど、いつも私たちが協会の活動で実施しているファシリテーションとは勝手が少し異なり新鮮でした。視点を変えれば、普段はワークショップに参加することのない層にも関心を持ってもらえたといえそうです。
私たちにとっても、SFプロトタイピングという新しい思考方法を使ったプログラムの検証と、普段とは違う層の参加者が満足度できるファシリテーションの検証という2つにトライしている状態でした。
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