「手のひらを虫が這う感覚」を体験できる超薄型「電子皮膚」 無線から電気刺激で触覚生成:Innovative Tech
香港城市大学などに所属する研究者らは、手のひらへの電気刺激で触覚を着用者に与えるVR向け極薄ハプティクスデバイスを提案した研究報告を発表した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
香港城市大学などに所属する研究者らが発表した論文「Encoding of tactile information in hand via skin-integrated wireless haptic interface」は、手のひらへの電気刺激で触覚を着用者に与えるVR向け極薄ハプティクスデバイスを提案した研究報告である。
電極が備わったパッチを手のひらに貼り付け、無線で電気を流すことで着用者に対してVRに応じた触覚刺激を提供できる。
触覚を加えたVR体験は臨場感の向上につながり、中でも手への触覚刺激は高い効果が得られる。だが、手の場合だと手袋を装着するなどかさばる仕様のものが多い。没入感を考えると、手に何も付いていないような状態が望ましい。
この研究では、皮膚に直接貼り付ける柔軟で薄く、軽量なワイヤレス触覚デバイス「WeTac」を提案し、正確な触覚フィードバックを維持したまま装着感の低減を目指す。
システムは手のひらに装着する電極(パッチ)と、前腕に取り付けるチップドライバー(重量19.2g、サイズ50×50×2.1mm)で構成する。
パッチの厚さはわずか220ミクロン〜1ミリメートルで、手のひらから指先まで電極で覆われている。これらを駆動させるチップドライバーはBluetoothと充電式の小型リチウムイオン電池などが組み込まれており、ワイヤレス伝送や給電動作に使用される。
パッチには32個の電気触覚刺素子を装備しており、各電極間の中心距離は約13mmで、指先から手のひらまでさまざまな範囲をカバーする。各電極はそれぞれプログラム可能で、事細かに電気刺激の強度を調整できる。
長時間の操作によるユーザーの不快感を防ぐために、温度をセ氏27度から35.5度に維持するよう設計した。
このシステムを用い、VRやARなどのバーチャルシーンと同期した使い方が可能である。バーチャルアバターと握手をする、テニスボールをつかむ、サボテンに触れる、手のひらの上を這う虫の感覚など、さまざまなシナリオでバーチャルオブジェクトを体験できる。
またロボットハンドを動かすテストも行い、同期して手首や指を動かして物をつかむことに成功している。
Source and Image Credits: Yao, K., Zhou, J., Huang, Q. et al. Encoding of tactile information in hand via skin-integrated wireless haptic interface. Nat Mach Intell 4, 893-903 (2022). https://doi.org/10.1038/s42256-022-00543-y
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