「人間の脳はフィクションを求める」 発想力が足りないから世界に負ける――“SF思考”が日本再興の鍵に?:SFプロトタイピングを語る(1/2 ページ)
SFをビジネスに活用する取り組み「SFプロトタイピング」について、SF作家・樋口恭介さんが講演しました。「人間の脳はフィクションを求める」という言葉も飛び出した講演内容をレポート。企画意図などを取材しました。
こんにちは。SFプロトタイパーの大橋博之です。
この連載では、僕が取り組んでいる「SFプロトタイピング」について語ります。SFプロトタイピングとは、 “SF思考”で考えた未来を基にSF小説などを創作して、最終的に企業のビジネスに活用したり、未来から逆算して現在すべきことを考えたりするメソッドです。
今回は、SF作家でITコンサルタントの樋口恭介さんが登壇したビジネス講演会「イノベーションを創造する─SF思考で学ぶ発想力─」(2022年12月3日実施)のレポートをお届けします。
葛飾区立中央図書館が主催したもので、22年のビジネス講演会のテーマとしてSFプロトタイピングに着目。SFプロトタイピングの解説書「未来は予測するものではなく創造するものである」の著者である樋口さんが登壇することになりました。
本記事は、1時間30分の講演会のうちSFプロトタイピングの意義について触れた部分を抜粋してまとめました。
「テクノロジー」「ビジネス」と「社会」をフィクションでつなげる
講師の樋口恭介さんは、12年に新卒で外資系コンサルタント企業に入社し、ITコンサルとして働きます。そして17年にSF小説「構造素子」で第5回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞。作家デビューしました。
働きながらSFを書くことは連続性があると思っていた――樋口さんはこう話します。ビジネスとSFの橋渡しをしたかったそうです。「テクノロジーを社会に実装していく」「社会をビジネスの力で変えていく」といったことを、思想や生き方の面で影響を受けてきたフィクションで理論的に接続できないか考えていたところ、SFプロトタイピングの存在を知ったと振り返ります。
そのときに手にしたのが書籍「インテルの製品開発を支えるSFプロトタイピング」(ブライアン・デイビッド・ジョンソン著/亜紀書房)でした。
「この本の著者は、基礎研究レベルで可能性があるけれど、それをどう社会実装していいのか分からないときにフィクションの力を使うのが有効だと唱えています」(樋口さん)
抱えていた問題意識が同書籍の著者と近かったと分かり、自分なりにSFプロトタイピングに取り組むことになります。そして21年にSFプロトタイピングの解説書「未来は予測するものではなく創造するものである」(筑摩書房)を刊行しました。
老舗大企業のビジネスが難しいワケ 「解決策のSFプロトタイピングは最先端」
SFプロトタイピングに取り組む樋口さんから見て、現代社会では「老舗の大企業はビジネスをしにくい環境にある」と指摘します。老舗の大企業は、もともとイノベーティブなことをしていました。それなのに、成功パータンをナレッジとして蓄積してしまったために、いまではイノベーティブな挑戦ができなくなってきているのだといいます。
「例えば、自動車を売っていた会社が今後も自動車を売り続けようとすることで、逆に自動車しか売れない会社になります」(樋口さん)
時代の変化は目まぐるしく、自動車を選ぶユーザーが抱えるニーズに合う新たなプロダクトを持った新しい企業が自動車産業に参入してきます。すると自動車しか生産していない企業は、その新興企業に太刀打ちできなくなります。
分かりやすい例が、イーロン・マスク氏が率いる米Tesla社です。Tesla社は自動車だけを作っているわけではありません。さまざまなテクノロジーを持つTesla社が自動車産業に参入したことで、自動車だけを作っていた企業は電気自動車の分野で王座を奪われることになりました。
他にも地球環境やジェンダー問題といった新しい思想が登場しており、これまでの考え方ではビジネスが難しくなってきているのです。その解決策の一つにSFプロトタイピングがあると樋口さんはいいます。
「解決策としてのSFプロトタイピングは、数ある思考法の中でも最先端に位置付けられるものだといえます」(樋口さん)
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