IP伝送からファイルベースまで1本化する「Creators' Cloud」 ソニーのプロフェッショナル戦略とは:小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(3/3 ページ)
放送業界で早くからデジタル化に取り組んできたソニー。IP伝送からクラウドを活用したファイルベースまでを網羅する「Creator's Cloud」を掲げる同社が取り組むプロフェッショナル戦略とはどういったものだろうか。
IPで遠隔地のハードウェアリソースをつなぐ
「Creators’ Cloud」はこれから本格的に実動するソリューションだが、すでに実動しているのが、「NETWORKED LIVE」である。これはIPを軸に、各パートごとにクラウドかオンプレミスか、使いやすい方やコスト的に合う方を自由に選択してプロダクションするソリューションだ。逆に言えば、クラウド側のサービスが、今のように「Creators’ Cloud」という格好のトータルソリューションではなく、パートごとに別れたワンポイントリリーフ的な存在だったため、こうした姿になっていたともいえる。
リモートプロダクションと言えば、今はコロナ禍で出勤できない状況をカバーするために使われるイメージがあるが、2020年以前は遠隔地のリソースをあたかも手元にある機材のように扱えるという文脈で使われていた。これを実現していたのが、ノルウェーのNevion社が開発した「VideoIPath」というプラットフォームである。ソニーは2020年にNevionを買収し、これにより「NETWORKED LIVE」を一気に加速させた。
ご承知のようにヨーロッパは小国に別れているが、民放のネットワークの持ち方が違う。日本では各都道府県ごとに独立民放局があり、それらが契約によって放送網を形成している。一方ヨーロッパ各国では、(例外もあるが)各地方都市ごとに自社の支局があり、より緊密に映像や情報リソースをやりとりしている。つまり遠隔地にある自社機材をリモートで動かすといったニーズが非常に高く、Nevion社の技術的需要もそうした背景から来ている。
ソニーは「NETWORKED LIVE」の根幹を支える機器として、2022年9月、ライブプロダクションスイッチャーの新モデル「MLS-X1」を発表した。これは4Uサイズの筐体を持ったソフトウェア・ハードウェアハイブリッドスイッチャーで、入力はIPしかない。HD運用であれば1台で64入出力、4M/E相当の段数を持ち、合成数はCPU/GPUの負荷次第のスケーラブルである。コントロールパネルは、既存のスイッチャーパネル2タイプから選択できる。
最大の特徴は、遠隔地にある「MLS-X1」をIPで結んで最大5台までリンクして、巨大システムとして再構築できるところだ。従来も、同じフロア内にあるリソースを貸し借りできるスイッチャーはあったが、完全に別の場所や地域にあるものもまとめられる点では、オンプレミス Over IPともいえるシステムである。
IP伝送はリモートプロダクションに欠かせない技術ではあるが、単に映像が渡せるだけでは大したことはできない。機材のコントロールをはじめ、リソース全体をオーケストレーションできるかどうかにかかっている。こうした技術的ニーズはすでにヨーロッパが数年先行しており、世界はアフターコロナの後、そのあとを追いかける格好となっている。
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