プロジェクター付きの椅子ってどう? カナダの研究者らが開発 背もたれに寄り掛かって天井に星空投影など:Innovative Tech
カナダのウォータールー大学に所属する研究者らは、プロジェクターを取り付けた椅子を提案した研究報告を発表した。
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このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。Twitter: @shiropen2
カナダのウォータールー大学に所属する研究者らが発表した論文「An Instrumented Office Chair with a Steerable Projector for Personal Spatial Augmented Reality」は、プロジェクターを取り付けた椅子を提案した研究報告である。
椅子の肘置き(肘掛け)右下に取り付けられた自在に動くピコプロジェクターが、壁や天井、床への投影を実現する。椅子本体に多数のセンサーを取り付けており、肘置きを指でスワイプする方法や、背もたれに寄り掛かる方法などでデジタルコンテンツを操作できる。背もたれに深く寄り掛かると、天井に星空が自動投影することも可能だ。
(a)姿勢検知用の背中と座面の圧力センサー、(b)タッチ入力用の肘置きの銅テープ、(c)座面下の回路基板とArduino、(d)座面下のRaspberry Pi、(e)深度カメラとピコプロジェクターを支えるカスタムマウント、(f)傾きを追う背部の慣性計測ユニット、(g)バッテリーバンク
AR(拡張現実)は、スマートフォンやスマートグラスなどを通して実世界に重ねるようにデジタルコンテンツを表示させる技術である。またARの一種で、プロジェクションマッピングによって既存の環境表面にデジタルコンテンツを表示させる技術をSAR(空間拡張現実)と呼ぶ。
SARをより知りたい方は岩井大輔氏(大阪大学大学院基礎工学研究科准教授)の連載「プロジェクションマッピング技術の変遷」をおススメしたい。
一般的なSARシステムは、移動が困難な壁や天井に設置した高価なプロジェクターを使用している。複雑なキャリブレーションが必要で、配備や携帯の妨げになっている。自己完結型のポータブルSARシステムは、これらの問題のいくつかを軽減し、個人的なSAR体験を可能にする。小型のピコプロジェクターを肩や頭に取り付けた研究も報告されている。
ここでは日頃仕事で使用する椅子に着目し、椅子の横にピコプロジェクターを設置したポータブルSARシステムを提案する。オフィスチェアを独立した入出力デバイスとして利用するアイデアである。
椅子の側面に取り付けたプロジェクターは、自在に動いて壁や天井、床などに投影する。椅子に取り付けたセンサー類により、椅子の位置や背中の傾き、回転、表面センサー、肘置きに沿ったタッチでデジタルコンテンツの操作が行える。
プロトタイプでは、180度の高トルクサーボモータ2台を用いたパンチルト機構にピコプロジェクターを搭載している。これは椅子の右側、肘置きから8cm下、椅子から10cmのところに取り付けられている。
この設置方法により、椅子を動かさずに床や天井、壁などに投影することができる。プロジェクター(Cellulon picobit)はレーザー光学系で、解像度1280×720、63ANSIルーメンを実現している。
Intel RealSense D435i RGBDカメラ(深度カメラ)が右肘置きの下に取り付けられる。カメラは肘置きから14.5cmの距離に設置され、わずかに下向きの角度を有している。カメラは自動的に30FPSでRGB画像と深度画像を取り込む。RealSense APIを使用して、深度画像とUVマップを作成する(全て640×480px)。これらの画像から、椅子の位置や回転をセンシングし、部屋の3Dメッシュを作成する。
椅子の背の傾きや着座姿勢、肘掛に沿ったタッチ入力を追跡するために、Arduino Megaが椅子の下に設置されている。椅子の背もたれに取り付けた慣性計測ユニット(MPU6050)のピッチ値を用いて、背の傾き角度を度単位で計測する。
姿勢は、椅子の6つの異なる部分(背中の上部や背中の下部、座面、2つの肘掛け)に設置した圧力センサーを使用して検知する。これにより着座時の人の全体的な姿勢を推定できる。
幅6mmの銅テープを12本平行に、左右の肘置きの外側と内側の縁に巻き付け、タッチセンサー機能とする。各帯状の銅テープには、静電容量式コントローラーボードを接続しており、これらをスワイプすることで低解像度のタッチ入力を可能にする。スワイプ入力に制限することで、椅子をつかんで立ち上がったり動かしたりする際の意図しない入力を避けられる。
特注のプリント基板は、全てのセンサーやサーボ、アクチュエーターを専用コネクターを使ってArduino Megaに接続している。ArduinoとRGBDカメラは、USBポートを介してRaspberry Pi 4に接続されている。取得したデータは、椅子の位置・回転・傾きの特定、椅子に座った人の姿勢の検出、肘掛の端のタッチの検出などに利用される。
このカスタマイズした椅子を使ったデモンストレーションがいくつか紹介ある。例えば「壁にメールなどの通知を表示する」「長時間椅子に座っていると立って運動するように促す通知を壁に通知する」「椅子から立ってどこか行くと壁に何時に誰が立ったかの情報が表示される」など。
他にも「PCで表示している画面を壁に投影する」「背もたれに深く寄り掛かることで天井にデジタルコンテンツを投影する」「PCゲーム中にゲーム内容に応じたデジタルコンテンツをPC周辺の壁に雰囲気作りで投影する」「床にチェス盤を表示しバトルする」など。
室内会議では、壁に投影して複数人で資料などのデジタルコンテンツを共有することも可能である。
Source and Image Credits: Nikhita Joshi, Antony Albert Raj Irudayaraj, Jeremy Hartmann, and Daniel Vogel. 2022. An Instrumented Office Chair with a Steerable Projector for Personal Spatial Augmented Reality. In Proceedings of the 2022 ACM Symposium on Spatial User Interaction(SUI ’22). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, Article 1, 1-12. https://doi.org/10.1145/3565970.3567705
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