“食器ペロペロ”など相次ぐ不衛生動画、注意すべき「炎上を悪用する者」の存在:小寺信良のIT大作戦(1/3 ページ)
1月下旬から、外食産業にて不衛生な行為を行なった動画がネット上で拡散され、連続炎上状態となっている。これまでの炎上と違うのが、炎上を意図的に利用する人物の存在が見えるようになったことだ。
1月下旬から、外食産業にて不衛生な行為を行なった動画がネット上で拡散され、連続炎上状態となっている。
筆者が把握しているだけでも
- はま寿司にて他人の注文したすしにわさびを載せる(1月13日ごろに拡散)
- くら寿司にて一度取ったすしをレーンに戻す(1月24日ごろ拡散)
- セブン-イレブンのアルバイト高校生がケース内のポテトを交互にかじる(1月25日ごろ拡散)
- スシローにてしょうゆ差しや湯飲みをなめて戻す。流れるすしにも唾液の付いた指でさわる(1月29日ごろ拡散)
- 資さんうどんにて、無料提供の天かすを共用スプーンでそのまま食べる(2月1日ごろ拡散)
- 焼き肉店(店舗不明)にて使用済みの爪ようじをケースに戻す(2月3日ごろ拡散)
と続いている。オリジナルの投稿は確認できなかったため、拡散日はおおよそである。実際の行為日については、くら寿司の動画のみ4年前のものであることが確認されているが、その他についてはいつの行為なのかはっきり確認できていないようだ。
この中で特にスシローの事件は、すでに実行した人物が特定できたこともあるのか、外食チェーン全体の信用に関わる問題として、厳罰に処すべきという意見が多く見られる。保護者に伴われて本人が謝罪に赴くも、スシローとしては引き続き刑事、民事両方で厳正に対処していくというリリースを出している。
これまでこうした食品衛生に関する炎上事件を子供のネットリテラシーの問題と捉えて、2013年に2本(1本目、2本目) 、2021年に1本コラムを書いている。
だが今回の炎上事件は、どうもこれまでの食品衛生上の炎上とは性格が違ってきているように見える。
「身内」ではなくなった炎上の中身
過去の炎上事件は、いわゆる「バイトテロ」と呼ばれるものだった。アルバイトとして雇った従業員の不衛生行為は、いわゆる「身内の不祥事」であり、店舗側の教育の問題もあるとされた。
一方で今回の一連の炎上事件は、セブン-イレブンを除いては顧客が行なった行為である。外食チェーン店であれば、どのような客でも基本的には断わることなく受け入れるわけで、客の不衛生行為を店側が防げないのが悪い、とはなかなか言えないところがある。
今回は回転すしチェーンが多いのが特徴だが、筆者が若い頃の回転すしはレーンが楕円形になっており、その真ん中が厨房で、板前さんに直接注文していたものだった。だが昨今そのような業態はほとんどなく、オーダーはタブレットで、厨房は客からは見えない。ホールに数名の接客係はいるものの、常時巡回しているわけでもなく、ボックス席に入れば他の客からも見えない。特にコロナ禍以降、外食産業は客席を隔離する傾向が強くなっている。
そんな中で、食の安全を脅かすのが「お店のスタッフ」から「客」に変わったのは、利用するわれわれとしてもショックが大きい。それがゆえに行為者に対しての怒りも大きいわけだが、再発防止のためにも、このような炎上の構造を分解して、問題を切り分けておく必要がある。
今回のような迷惑行為を動画で撮影したのは誰か。セルフィではないことは動画の様子からも確認できるので、「仲間」がいたと推測するのが妥当である。やんちゃな高校生ぐらいの子が数名集まったところで誰か1人にカメラを向ければ、当人は何かウケることをしなければ、とプレッシャーを感じるだろう。今から自分がやんちゃするから動画で撮れ、と行為者本人が命じたわけではなさそうである。そこがInstagramやTikTokが普及した後の、世代感覚であるかもしれない。
仲間にカメラを向けて動画を撮影する行為が、こうした不適切な行動をするようそそのかす、広い意味での教唆という側面があるのではないかという点は、指摘しておきたい。
もう1つ、この動画をネットに上げたのは誰かという点が、スルーされているのではないか。迷惑行為を撮影したスマートフォンが行為者のものでないとすれば、動画は撮影者のスマートフォンの中にある。わざわざ顔出しで撮影された動画を自分に送ってもらって、自らアップする危険性が分からない年齢でもないだろう。従って行為者自身がネットに上げたとは、考えにくい。
ではこれをネットに上げたのは誰か。撮影者がSNSなどに上げなくても、友達間でシェアなどしてしまったら、もう拡散は止められない。SNSに裏垢を所有するのが当然の現在、誰が上げたのかも特定は難しい。炎上するのは必至とみられる動画を面白がってSNS等に投稿する、あるいは人気YouTuberに送りつけるといった行為の不適切さを誰も指摘していないのは、奇妙な気がする。
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