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“考えている単語”を脳から読み取り特定 口パクは不要 米カリフォルニア工科大が発表Innovative Tech

米カリフォルニア工科大学に所属する研究者らは、四肢まひの参加者が話したり話すまね(口パク)をしたりせず、単に考えている単語を脳から予測できるブレイン・マシン・インタフェース(BMI)を提案した研究報告を発表した。

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Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。Twitter: @shiropen2

 米カリフォルニア工科大学に所属する研究者らが発表した論文「Online internal speech decoding from single neurons in a human participant」は、四肢まひの参加者が話したり話すまね(口パク)をしたりせず、単に考えている単語を脳から予測できるブレイン・マシン・インタフェース(BMI)を提案した研究報告である。脳内で単語を発話するイメージをしてもらった脳信号を記録して予測する。


考えている単語を脳信号から解読するイメージ図

 電極を脳に埋め込み、脳からテキストを生成する侵襲的なBMI研究が多数報告されている。これまでの研究では、参加者が言葉を囁いたり話すまねをしたりしたときに運動野から記録される脳信号を分析することで、参加者の発話を予測することに成功している。

 しかし、誰かが考えていること、つまり内的対話(内部音声)を予測するのは、口周辺の動きを伴わないため、はるかに困難である。先行研究でも内的対話による単語を予測した結果は、3つか4つの単語しか予測できず、精度も低くリアルタイムではできなかった。

 この研究では、内的対話による単語を脳から予測し、これまでで最も精度の高いBMIシステムを報告する。システムは、頭頂葉の後部にある縁上回と呼ばれる脳領域の単一ニューロンから脳信号を記録する。

 まず、四肢まひの参加者が特定の言葉を考えたときに生じる脳のパターンを認識するよう、BMIモデルを訓練する。単純な線形モデルを使用する。学習時間は15分と短い。次に、ある単語を画面上で点滅させ、その単語を脳の中で発話するイメージで参加者に考えてもらう。

 実験は、縁上回と一次体性感覚野に電極を埋め込んだ四肢まひの参加者で実施した。単語のうち6つは実在する単語(Battlefield、Cowboy、Python、Spoon、Swimming、Telephone)、2つは実在しない疑似単語(Nifzig、Bindip)を使用する。

 結果は、提案システムが8つの単語を最大91%の精度で予測できると分かった。

 さらに同じ単語を用い、内部音声(声に出さないで脳の中で発話する)と発話音声(実際に声に出して話す)の違いを比較する実験も行った。その結果、内部音声中に活動しているニューロンの82〜85%は発話音声中に活動しており、53〜56%は同じ単語に同調していると分かった。これは内部音声と発話音声が強力な神経表現を共有していることを示唆する。


内部音声で同調したニューロンのうち、発話音声でも同調しているニューロンの割合

 この研究はまだ予備的なものだが、脳損傷やまひ、あるいは発話に影響を及ぼす筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの疾患を持つ患者の助けとなる可能性がある。

 留意点として、今回のシステムは個人的な考えを解読することはできない。参加者が単語に集中している場合にのみ機能し、現在はデコーダーがトレーニングされた単語に対してのみ機能する。またこの研究はプレプリントであり、査読はまだされていない。

Source and Image Credits: Sarah K. Wandelt, David A. Bjanes, Kelsie Pejsa, Brian Lee, Charles Liu, Richard A. Andersen. Online internal speech decoding from single neurons in a human participant https://doi.org/10.1101/2022.11.02.22281775



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