止まらない「誹謗中傷」にどう対応する? 総務省の資料から見た現状と、サービス側の“限界”:小寺信良のIT大作戦(3/3 ページ)
総務省で始まった「誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ」。配布資料には誹謗中傷に対する調査報告が行われている。この資料をもとに現状分析と対策の問題点について整理してみたい。
対応の限界
サービス事業者による誹謗中傷への対応だが、現時点での課題がワーキンググループのメンバーである清水陽平弁護士の発表資料にまとめられている。この中から、利用者側からの課題に注目してみる。
まずフォームからの依頼に対する対応不足として、海外プラットフォーマーの場合、日本人の感覚や法律と一致した判断がされないという問題がある。ここはワールドワイドサービスの難しいところである。
サービス事業者としては全世界で共通のルールで運用したいところだろうが、国、というより民族や宗教、文化圏によって独自のタブーがあったり、妙に緩い部分があったりする。全ての文化圏に対応する共通ルールを作ると、とてつもなく窮屈なものになりかねないため、基本的にはサービス事業者の自国の法や常識に合わせてルールが作られ、それで対応できない部分のみ国別のルールを設けるというのが妥当なところだろう。
ただそれも肌の露出や宗教上のルールなど、明確な基準があれば対応できるが、誹謗中傷の範囲はなかなかルールが明確化しづらく、表現の自由とも背中合わせでもあるため、他国で作られた基本ルールでは感覚的に納得できないケースもあり得るだろう。
もう1つ、削除対応の硬軟は時期による差が大きいことも指摘されている。何か事件がおこれば、同様の案件に関して一時的に厳しくなることはあるが、それが継続されるわけではなく時間が経てばまた許されるようになるなど、ルールの安定性に欠ける。それが一定の基準で動いている結果なのか、担当者の気分なのかが不明だ。そしてまた同じことが繰り返される事になる。一時的な規制強化は、便乗するものへの抑止効果はあるが、それ以上でもそれ以下でもない。
削除やアカウント停止などの請求が認められなかった場合、そもそも理由の通知がなければ反論も再申請もままならない。ここが、事業者側から反応がないことの一番のデメリットだろう。加えて、一度認めないと判断されると、その判断が固定化される傾向があることも指摘されている。
運用の不透明さに関しては、何らかの法規制で対応することはできるだろう。その一方で判断の揺れに関しては、表現の自由とのバランスもあることから、一律的な法規制が馴染まないことも考えられる。
誹謗中傷はどのSNSでも発生する問題ではあるが、特にTwitterをどうするかが当面の課題になってくる。誹謗中傷を放置すれば、これまではプラットフォームが衰退するといった「罰」を受ける事になったわけだが、もはやTwitterは日本人にとってはホームグラウンド的な存在になっている。イーロン・マスク氏の買収によって方向性が二転三転したあと、他のプラットフォームへの避難も検討され、実際に移行した人もいたと思うが、Twitterほどの規模のSNSは他になく、結局は仕方なくまた戻ってきたという人も少なくない。
「割れ窓理論」の例もあるように、一番良くないのは放置状態になっていることである。現時点でTwitterの管理運営は、ユーザーの期待通りに動いているのか、それを確認する手段にも乏しい。ユーザー間で誹謗中傷を許さないムード作りが重要だが、私刑が許されないこの国においてどこまで「ムード」が抑止力となり得るのか、われわれはその答えももう10年以上も探し続けているが、いまだ見つからないままだ。
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