1発の注射で大量の薬を埋め込み、時間差で放出する技術 数週間から数カ月先までコントロール可能:Innovative Tech
米ライス大学に所属する研究者らは、1回の注射で大量の時間差放出ドラックを注入できる手法を提案した研究報告を発表した。注射後数週間から数カ月の時間差で体内にたまっている薬剤を自動放出することができる。
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。Twitter: @shiropen2
米ライス大学に所属する研究者らが発表した論文「A Scalable Platform for Fabricating Biodegradable Microparticles with Pulsatile Drug Release」は、1回の注射で大量の時間差放出ドラックを注入できる手法を提案した研究報告である。注射後数週間から数カ月の時間差で体内にたまっている薬剤を自動放出することができる。
患者が処方薬を飲み忘れたり、飲まなかったり、間違って飲んだりした場合、大きな問題になる可能性がある。そこで研究者らは、薬剤を体内に置いて時間差で放出するタイムリリースドラック「PULSED」(Particles Uniformly Liquified and Sealed to Encapsulate Drugs)を提案する。
薬をマイクロパーティクルに封入し、時間の経過とともに溶けて放出するアイデアは新しくないが、今回はそれを皮下注射針で注入できるほど小さく汎用性の高いカプセル化を実現した。これは高解像度3Dプリントとソフトリソグラフィを用い、300以上の小さな生分解性ポリマーをアレイ状に作ることで達成する。
カプセルは臨床医療に広く使われているPLGAというポリマーでできており、PLGAのレシピを微調整する方法で粒子が薬物を溶解・放出する速度を、最短10日から5週間まで変化させることができる。
これによって、数カ月に渡って複数回の投与が必要な病気やワクチン接種に対して、正確な薬剤投与が可能となる。また飲み薬と違い、皮下注射は必要な場所に直接投与できる利点を持つ。必要な場所にとどまるため、副作用の軽減も考えられる。
Source and Image Credits: Tyler P. Graf, Sherry Yue Qiu, Dhruv Varshney, Mei-Li Laracuente, Erin M. Euliano, Pujita Munnangi, Brett H. Pogostin, Tsvetelina Baryakova, Arnav Garyali, Kevin J. McHugh. A Scalable Platform for Fabricating Biodegradable Microparticles with Pulsatile Drug Release.
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