ADHDの子どもが「動くワケ」「動かないワケ」とは? 米国の研究者らが検証:Innovative Tech
米セントラルフロリダ大学に所属する研究者らは、注意欠陥・多動性障害(ADHD)の子どもが動く要因を調査するための実験を行った研究報告を発表した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。Twitter: @shiropen2
米セントラルフロリダ大学に所属する研究者らが発表した「Inattentive Behavior in Boys with ADHD during Classroom Instruction: the Mediating Role of Working Memory Processes」は、注意欠陥・多動性障害(ADHD)の子どもが動く要因を調査するための実験を行った研究報告である。
ADHDを持つ子どもの行動には、そわそわしたり、たたいたり、椅子をグルグル回したりすることが多い。しかし、ある状態では完全にじっとしていられるのに、ある状態ではあちこち動き回っており、状況によっては行動に違いがある。この研究では、ADHDの子どもが過剰に動く状態と、じっとしている状態がどういった要因なのかを探求するための実験を行った。
実験は、8歳から12歳の子ども62人を対象にテストを行った。そのうち32人がADHD、30人はADHDではなく対照群となる。子どもたちには、動きを数値化するためのモーション検知用ウェアラブルデバイスを身に着けてもらう。
デバイスを装着した子どもたちに、それぞれ10分ほどの短いビデオを2本見てもらう。一つは映画「スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス」のワンシーンで、もう一つは先生が足し算、引き算、掛け算の問題に対する解説を行う指導ビデオである。
実験の結果、ADHDの子どもたちは、スター・ウォーズを見ている間はほとんど動かなかったが、算数のビデオを見ている間は、椅子を回転させたり、頻繁に体勢を変えたり、足をたたいたりして過剰な動きを見せた。
研究者らは、この結果が算数のビデオが退屈だから動いているのではなく、脳の実行機能にアクセスして脳が緊張し負担がかかっているから動きが発動していると考える。
ADHDの子どもたちが教室で見せる不注意さの多くが「ワーキングメモリ」の未発達に関係していることを示すという。ワーキングメモリとは、脳の前頭前野にある実行機能で、学習や推論、理解といった複雑な認知タスクを遂行するために必要な情報を一時的に記憶し、管理するための能力を指す。
スターウォーズは感覚を使ってただ見ているだけに対して、算数のビデオはワーキングメモリを使って処理している。ワーキングメモリを使って処理している時は、その注意力を維持しなければならないため、過剰な動きがその維持に役立っている可能性があるという。つまり、動いてしまうというよりも、複雑な認知タスクを遂行するために「動く必要がある」というわけだ。
Source and Image Credits: Orban, S.A., Rapport, M.D., Friedman, L.M. et al. Inattentive Behavior in Boys with ADHD during Classroom Instruction: the Mediating Role of Working Memory Processes. J Abnorm Child Psychol 46, 713?727 (2018). https://doi.org/10.1007/s10802-017-0338-x
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