人は4本の手を扱える?体は何個まで?→「体もう1つは余裕」 身体拡張の可能性を東大・稲見教授に聞く:「AIの遺電子」と探る未来(5/5 ページ)
「猫の手も借りたい」「体がもう一つ欲しい」とはよく言ったもの。1つの体、2本の腕と2本の足ではできることにも限界がある。そんな限界を取り払おうとしているのが、東京大学先端科学技術研究センターの稲見昌彦教授だ。人間は果たしてどこまで拡張できるのか。アニメ「AIの遺電子」原作者の山田胡瓜さんと対談した。
自分を空間的・時間的に客観的に見られればいろんな問題が解消?
山田 あとは適当なんですけど、僕の漫画ではマウスの実験で5つの世界を同時に体験させたら食欲が減衰して死んじゃったって設定にはしてあります。5つの世界は多分無理だなって。
稲見 面白い。それも根拠あるかもしれませんよ。我々も実験で4つまではやっています。
山田 マジですか。
稲見 本当にシンプルなんですけど、VRゴーグルで視点を4分割するだけなんですよ。4つの身体からの視点を、本人の主観的なものも合わせて、その中でキャッチボールしたりだとか、やりたいことに対して手の数が足りないときはだめなんですけど、ある程度それぞれの世界を認識してできるようになる。それをつけた状態で鬼ごっこもできるようになる。
これ2分割でも面白くて、鬼の視点が見られて、鬼は逃げている人の視点が見える。鬼に自分が映り込むと慌てて逃げ始めるみたいな。
山田 ふと感じたんですけど、クルマのゲームとかだと一人称よりちょっと後ろに視点があるじゃないですか。あの視点があったら自分を客観的に見られて、突然怒ったり、他人を罵倒したりしなくなるかもしれませんね。
稲見 それに近い研究としては、2003年くらいに東工大の長谷川(晶一)先生が3人称視点でスキーができるというのを作ったことがあります。
すごくシンプルで、背中からポールを伸ばしてそのポール先のカメラからの映像を片目のゴーグルで見ながら滑るとそれっぽくなる。これはすごく楽しかったんですけど、その後レスキューロボットの操作にも使いました。
レスキューロボットの操作ってすごく難しくて、でもそうやって3人称視点を作ると障害物回避性能がよくなって、国内のロボットコンテストでぶっちぎり1位になったこともありました。
人間も本当は3人称視点があった方が幸せなことはたくさんあるじゃないですか。その数少ない解の一つとしてたまたま鏡を使っているというくらいなんじゃないですかね。
山田 精神面での衝突も3人称で回避できるということですね。
稲見 アンガーマネジメントでいうと、ちょっと前の自分を見せるのも大事。時間差で過去の自分をうまく見せると落ち着くこともあったりする。
それをある種のVRとして常に同時に、5分前か10秒前かは分からないですが、過去の自分を同時に体験させ続けることによってある種の自分の心のメイキングができるとか、新しい自己との対話みたいなことができる可能性はありそうです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
“AIグラビア”でよくない? 生成AI時代に現実はどこまで必要か
集英社のAIグラビアは1週間でお蔵入りになったが、AmazonやYoutubeには大量の「AI生成グラビア」コンテンツが登録され、存在感を示し始めている。こうした非実在のデジタル人物はビジネスや世の中をどう変えるのか。アニメ「AIの遺電子」の原作者である山田胡瓜さんと、亡き妻の面影をAIを駆使して再現する取り組みで「第1回 AIアートグランプリ」の最優秀賞を受賞した「松尾P」こと松尾公也さんが語り合った。
AIの遺電子の根底にある「2つのやばさ」と「3つのAI」 ChatGPT到来を予言した世界観を作者本人が解剖
7月開始のテレビアニメで注目を集める、人とヒューマノイドの共存を描いた近未来SF「AIの遺電子」。作者とAI専門家との連続対談がここに実現。初回は「第1回 AIアートグランプリ」の最優秀作を受賞した「松尾P」こと松尾公也さんと、「人格のデジタルコピー」の話などあれやこれやを語り合う。
人格コピーAIは21世紀の写真? “亡き妻のAI再現”で受賞の松尾Pと「AIの遺電子」山田胡瓜が考える「デジタル人格」のこれから
技術進歩の加速が著しいAI。実在する人物の特徴あるいは人格をAIで再現できるようになる将来も近そうだ。そうしたときにどんなことが起こりうるのか。アニメ「AIの遺電子」原作者の山田胡瓜さんと、亡き妻の面影をAIを駆使して再現する取り組みで「第1回 AIアートグランプリ」の最優秀賞を受賞した松尾公也さんが議論した。
