この夏はペルチェでヒエヒエ 広がる「パーソナル冷房」の世界:小寺信良のIT大作戦(3/3 ページ)
筆者の仕事部屋には、エアコンがない。去年の夏に冷風扇を導入し、リビングのエアコンからの冷気を部屋内に引き込んでいる。これと「REON POCKET 4」のお世話になっている。さらに今年はもう1つ、ペルチェ素子を使った秘密兵器を導入して、さらに快適になった。
「冷やす」のパーソナル化
あたためる手段に関しては、さまざまな方法がある。要するに火を使うか電気で発熱させれば、温度は上げられるので、古くは白金カイロから近年はヒーターベストまで、パーソナルな暖房手段は数多く存在してきた。
一方で冷やす方に関してはこれまではエアコンぐらいしかなく、パーソナルな冷房手段としてはせいぜい氷枕とか冷えピタのような、熱がある時の対策ぐらいしかなかった。エアコンは「環境設備」であるため、大型では管内空調、小さくても部屋単位で、個人個人の好みには応えられない。このため、場所によっては冷えすぎる、あるいは全然冷えないといった不均衡が起きる。
こうした不均衡の解決に対して最初にトライしたのは、「空調服」ではなかったかと思う。2004年に販売が開始されたが、当時「株式会社空調服」は戸田橋のたもと戸田市側にあり、筆者も戸田に住んでいたのでよく知っている。
空調服の開発者、市ヶ谷 弘司氏はもともとソニーの技術者で、早期退職後に設立した会社の仕事で訪れた東南アジアのビル群眺めて、その莫大な電力量を想像し、空調服の発想を得たという。
一方でソニーで「REON POCKET」を開発した伊藤健二氏も、仕事で上海を訪れた際、外気温とホテル内の温度差の激しさが問題だと感じて、REON POCKETの発想を得たとしている。
どちらも環境設備であるエアコンの問題点を、違う目線で切っている。双方とも数多くの類似製品が登場しているが、ゼロから1を思い付ける人いて、初めてイノベーションは起こる。ポイントは、環境全体を冷やさなくても、人間1人を冷やすだけなら大したエネルギーはいらないという発想だ。こうした考え方は、電気料金が高騰した今、非常に魅力的なアプローチとなっている。
この分野で発展が期待されているのは、スポットクーラーだろう。常設ではなく可搬できる小型のクーラーで、ポータブルバッテリーと組み合わせたり、バッテリーを搭載したモデルが登場している。コロナ禍と連動してキャンプブームが起こった際に、車中泊とともに広く認知された。
しかし現在は行動制限も緩和され、従来の生活が戻ってくると、キャンプ・車中泊ブームも収束しはじめている。今後はもっぱら、デスクサイドに置いて1人を冷やすといった用途にフォーカスした製品が主流になっている。
ただ原理的には熱交換式のエアコンを小型化しただけなので、動作音がそれなりにうるさい、外への排気ダクトや排水ドレンを設置しなければならないなど、課題も多い。ドーンとイノベーションが起こるのではなく、少しずつ改良されていく分野だろう。
別のアプローチとしては、ペルチェ素子で水を冷やすという冷風扇も登場している。これは気化熱を利用した扇風機であり、排気ダクトも不要だ。あいにくまだ十分製品としてはこなれていようだが、空調服の気化熱とREON POCKETのペルチェが合体したような発想で、技術的にはトレンドを捉えているといえる。
この夏の暑さ対策として、さまざまな方法論やガジェットが紹介されているところだが、ポイントは効率面でつじつまが合うかというところだろう。手間がかかる割には効果が薄い、エアコンの電気代よりも費用がかさむというのでは、意味がない。
思い切って昼間は休んで、夜涼しくなってから仕事するみたいな、インド式の方法論もアリだろう。「ヒエティ」で足を冷やすのもそうだが、打ち水や簾(すだれ)、葦簀(よしず)など、古来行なわれてきた方法も、見直すべきなのかもしれない。
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