生成AIをどう思うかで観覧ルートが異なる「コトバにならないプロのワザ」展、仕掛け人の意図は? “隠しプロンプト”も(4/4 ページ)
日本科学未来舘で13日から「コトバにならないプロのワザ〜生成AIに再現できる?」を開催している。この展示、来場者の生成AIへの接し方で観覧ルートを選ばせるというユニークな手法を採用していて、それが秀逸なのだ。
つまり「生成AI時代に、人は何を信じるのか?」という問題提起から始まり、AIと人の創作や思考の違いの解説を経て、「生成AIのインパクトはどこから来たのか」というAIが社会に何をもたらし、その技術はどういうものかが示されるわけだ。
そして、それらの基礎知識を得た上で、谷川俊太郎さんとAIの詩作、小沢一敬さんとAIの漫才、大場美鈴とAIの子育てに関する対話といった、AIを通して人の暗黙知を探る映像や展示を見て終わる。その過程で、AIに対する考えや付き合い方を改めて見直し、さらに、人間や自分の思考とは何かへと考えを進めてほしいというのが、もう一方の見方になる。「一所懸命、パネルの並びを考えました」と佐久間さんが言うのもよく分かる見事な展示方法だ。
「AIは人間と同じようなことをしているように見えるけれど、本当にその能力とか知能みたいなものがちゃんと生み出されているのか、獲得されたのかっていう判断は結構まだ難しいんじゃないかな、という思いがあって、このパネルを作りました。自然言語が処理できちゃうので、人間向けの心理学のいろんなテストとか、子ども用の知能を測るものとかもAIができるようになっています。相手の心の中を想像する能力を測るテストも9割以上正解で小学生くらいの結果は出せちゃう。でも、それをもって生成AIが人間の心というものをちゃんと分かっていると言っていいのかどうか。そう言いたくなる気持ちも分かるんですけど、心を言語化した時点でそれはすでに論理だとい考えもありますから」と佐久間さん。
こういうモヤモヤについて考える機会を、AIに対するスタンスが違う人たちに少ないバイアスで見てもらおうという展示として、この企画は、ほんとうに良くできていると思った。
しかも、何も書かれていないように見える柱も近づいて見ると、薄い文字で何かが印刷されている。
「小沢さんが漫才をChatGPTに作らせた時のプロンプトと、その返答なんかがびっしりと印刷されています。動画に出演頂いた方々には、たくさんお話し頂いたし、せっかくならプロンプトも見せないともったいないと思ったんです。ChatGPTをあまり使ったことない人にも、どういうやりとりになるのか、見て想像いただけるといいなと。でも、ただでさえ文字が多い展示だし、文字の圧迫感は減らしたかったので、印刷を薄くしました」と佐久間さんは言うのだが、しかし、これは言われないと気がつかない。ほとんど隠しキャラだ。とは思うものの、こういう茶目っ気も、この展示の魅力だと思う。
「隠しプロンプトもそうですけど、今回の展示はグラフィックもすごく気に入っています。ポジティブな赤と、ネガティブな青がグラデーションになって、真ん中で淡くなっていくという感じでデザインの方にお願いしたんです。それが、自分とは違う考え方の人にも、自分がにじみ出していくような、一周回るとまたちょっと最初の色とは違う自分になっているような感じをグラフィックですごくうまく表現してくれたなと思って、プロって凄いなと思いました」と佐久間さん。
地味な展示と思われるかもしれないが、こんな風に、内容から構成、グラフィックまでとても練られた展示になっている。AIについて十分詳しいという人でも、何も知らないという人でも楽しめて、AIというよりも自分の思考を振り返る機会になると思うので、立ち寄る価値は十分にある。とりあえず、3人の動画コンテンツだけでも、今、見ておくと良いと思うのだ。
「コトバにならないプロのワザ〜生成AIに再現できる?」概要
会場:日本科学未来館 3階 総合案内前スペース
開催期間:2023年9月13日〜11月13日
開館時間:午前10時〜午後5時時
休館日:毎週火曜日
入場料:無料(入館料も不要)
関連リンク:特設ページ
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