空気中の“1点”だけに音を生み出すスピーカー 中国の研究者らが開発:Innovative Tech
中国の清華大学や上海交通大学などに所属する研究者らは、超音波を使って何もない空気中の1点だけにに音を作り出すスピーカー・システムを提案した研究報告を発表した。このシステムでは、音が鳴る範囲や場所をきめ細かくコントロールできる。
Innovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
Twitter: @shiropen2
中国の清華大学や上海交通大学などに所属する研究者らが発表した論文「Meta-Speaker: Acoustic Source Projection by Exploiting Air Nonlinearity」は、超音波を使って何もない空気中の1点だけにに音を作り出すスピーカー・システムを提案した研究報告である。このシステムでは、音が鳴る範囲や場所をきめ細かくコントロールできる。
音場を操作する方法として、音波の動きを制御する方法が存在する。この操作は通常、空間に配置された複数のスピーカーを必要とする。音波の組み合わせを工夫することで、1つまたはそれ以上の特定の音のゾーンを形成できる。
また、分散型のスピーカーに加えて、方向性を持つスピーカーも音場操作に用いられる。これらのスピーカーは、レーザーのように狭い範囲の音波を放射する特性があり、特定の音の領域だけを選択的に操作可能である。
この研究では、さらに高度な操作性を持つ新型スピーカー「Meta-Speaker」を提案する。Meta-Speakerの特徴は、音の聞こえる範囲を1点まで精密に制御できる点である。
Meta-Speakerは独特な仕組みを活用して、空気中の特定の1点のみに音を発生させる。例えば、水の池に2つの石を投げ入れると、2つの波紋が生じる。これらの波紋が交差する場所では、波の形が変化し、波が大きくなるか小さくなる。
Meta-Speakerは、この「交差する波」の特性を利用する。人の耳には通常聞こえない高い周波数の音(超音波)を2方向以上から放射する。これらの超音波が空中で交差する際に特定の方法でゆがみ、その結果、人が聞くことができる音(可聴音)が作り出される。
実際には、2つの超音波トランスデューサーアレイを使用する。これらの超音波が交差する点で、空気中で特有の反応(非線形な相互作用)が生じ、その結果として可聴音を生成。アレイが放出する超音波の範囲(ビーム幅)を調整することで、音が聞こえる範囲を変更できる。さらに、アレイの方向を調整することで、音が聞こえる場所(交差点)を移動させることも可能だ。
Meta-Speakerを応用したアプリケーションが3つ試作されている。1つ目は、音を使って物や人の位置を特定するアンカーフリーの位置特定システム。2つ目は、特定のエリア内のデバイスのみに音響メッセージを送信する位置認識通信システム。3つ目は、目の不自由な人などに対してピンポイントにガイダンスを送信する音響拡張現実システム。
Source and Image Credits: Weiguo Wang, Yuan He, Meng Jin, Yimiao Sun, and Xiuzhen Guo. 2023. Meta-Speaker: Acoustic Source Projection by Exploiting Air Nonlinearity. In Proceedings of the 29th Annual International Conference on Mobile Computing and Networking(ACM MobiCom ’23). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, Article 65, 1-15. https://doi.org/10.1145/3570361.3613279
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