「本人の声とそっくりな合成音声」の悪用に対して法的権利はあるか? NTT社会情報研究所が調査:Innovative Tech(3/3 ページ)
NTT社会情報研究所と慶應義塾大学の研究者らは、音声合成技術によって生成された、本人の声と酷似した合成音声が利用される場面において主張しうる権利について、著作権、パブリシティ権、個人情報の観点からの解釈を探求した研究報告を発表した。
声は個人情報に当たるか?
個人情報による声の保護については、次の架空の事例で検証する(音声合成AIの利用場面における法的課題―「声」に権利はあるのか―より引用)。
Yは、インターネット上に公開されているありとあらゆる人物の音声データを収集し、これらを音声合成モデルの学習用データセットとして整理・加工した。
個人情報保護法では、特定の個人を識別することができるものを「個人情報」と定義しており、この中には氏名や生年月日などの情報が含まれる。音声データが個人情報に該当するのは、大きく三つの場合である。(1)音声に個人情報が含まれている場合、(2)他の情報と照合して特定の個人を識別できる場合、(3)音声から個人識別符号を抽出する場合、これらのいずれかに当てはまると音声データは個人情報と見なされる。
例えば、Yが収集した音声データに個人情報が含まれている、他の個人情報と照合できる、または音声から個人を認証できる情報を抽出する場合、これらは個人情報の取得と見なされ、利用目的の特定および通知・公表義務が発生するとされる。
現行法の解釈では、音声データの取得は、上記のような条件を満たさない限り、個人情報の取得と見なされない。これに対して、カメラで撮影した顔画像はそれ自体が個人情報である。声には顔ほどの個人識別性はないとしても、著名な声優のように特定できる声は個人情報に該当する可能性がある。
しかし、事例2で収集される音声データのように、他の情報と照合しない限り個人の特定が難しいものは、個人情報に該当するか否かの判断が分かれる場合がある。
また、発声障害者の音声データが要配慮個人情報となる場合、その取得に当たって事業者は原則として本人の同意を得る必要がある。他方、個人情報保護法ガイドラインは、外見上明らかな要配慮個人情報の取得時において同意を不要と説明しているが、音声の取得についてもこの要件が当てはまるかは明確ではない。
今後の焦点は「声の人格権」に
音声に対する著作権法上の権利に関しては、現行の著作権制度の権利規定や制限規定に即した解釈をするべきである。声の著作物としての判断に際しては、条文の直接的な適用だけでなく、制度の意図や社会への影響を考慮し、適切な解釈が求められる。
ピンク・レディー事件以降、パブリシティ権の対象が氏名や肖像に限らないという見解が主流になっており、著名人の声も同等の顧客吸引力を持つと考えられるため、声がパブリシティ権の対象として認められる可能性は高い。しかし、この権利を人格権由来の権利と見なす場合「声の人格権」の存在が必要であるとする。
音声が顔画像と同様に個人情報に該当するかについては、まだ明確に整理されていないため、音声研究に関わる事業者にとって判断が難しい問題が残っており、これについては個人情報保護委員会を中心に議論が必要である。
この研究では音声合成が利用される状況下での声の無断使用や再現に関する救済策を著作権、パブリシティ権、個人情報の各面から検討し「声の権利」として整理したが、まだ確立されていない権利概念については、今後の理論的および実務的な議論を通じて明確化する必要がある。
Source and Image Credits: 荒岡 草馬, 秋山 真鈴, 篠田 詩織, 藤村 明子. 音声合成AIの利用場面における法的課題 ―「声」に権利はあるのか―. 情報処理学会 コンピュータセキュリティシンポジウム2023論文集 95 - 100ページ 2023-10-23
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