運用費に不安? 自治体システム標準化・ガバメントクラウドに取り組む現場のホンネ 茨城県水戸市の場合:ガバクラ・自治体システム標準化の行方(2/3 ページ)
さまざまな自治体の担当者に取材し、システム標準化に取り組む人の“生の声”を探る。今回は、茨城県水戸市に話を聞いた。
水戸市のシステム標準化、現場に聞いてみた 課題と現状は
──水戸市のシステム標準化について、進捗を教えてください
板橋さん(以下敬称略) コンサルタントなどをはさまず、以前から契約を結んでいたSIerと協力して進めており、25年度末までの移行を完了できる見込みです。23年度中か24年度の早いうちに、既存業務と標準化した後のシステムをすり合わせ、整合性を検討する作業「フィット&ギャップ」を始めていく考えです。実際にシステムを導入したり、稼働したりするのは25年4月以降になると考えています。
──水戸市では、どれくらいの規模の組織で標準化に取り組んでいるのでしょうか
板橋 関係課には標準化について伝えており、水戸市全体で意識できるようにしています。主管しているのは20人前後が所属するデジタルイノベーション課で、うち数人が庁内システムの担当者と連携しながら進めています。
──ガバメントクラウドのうち、どのクラウドサービスを使うかすでに決まっていますか
板橋 SIerの方向性に合わせ、Oracle Cloud Infrastructureを使うことになると認識しています。一部にAWSを使う可能性もありますが。
──システム標準化にかかる予算を教えてください
板橋 費用は5億数千万円程度を見込んでいます。当初の補助金の上限は2億数千万円程度で、このままだと差額は一般財源として自治体の負担になります。積み増しによって、全額を補助してもらう形で対応できればいいなと期待していますが、まだ正式な通知がきているわけではないので、その辺りは情報収集しながら進められれば。
北條さん(以下敬称略) とはいえ、不安な点は多いです。積み増しの話は導入経費について触れていますが、運用経費は言及がありません。
標準化後の運用費が現状のシステム運用費より上がってくる可能性もあります。標準化の必要性は理解していますが、これまでより高くなる場合、費用面だけでいえば「これで本当に良かったんだろうか」という形になるかもしれない。
そもそも、運用経費を含めシステムにかかる費用は、さまざまな手を尽くしながら精査し、費用対効果が最大化できるよう、ベンダーと緊張感を持って進めてきました。しかし、それが全部(積み増しによって)スタートに戻ってしまった。またイチから考えなければいけません。
──政府はシステム標準化とガバメントクラウドへの移行により、18年度比で運用経費3割削減を見込んでいるとしています。水戸市から見て、この指標は実現可能なものでしょうか
板橋 水戸市の場合、他の市町村とまとめてSIerと契約し、データセンターや回線を安く利用しています。そこからガバメントクラウドに移行して、果たして水戸市で3割安くなるかは、まだ不透明です。そもそも、(政府の指す指針が)全自治体の合計費用を3割減らすことを示すのか、各自治体が3割減を達成することを示すのか、明らかになっていません。
北條 今回、システム経費が注目を浴びていますが、自治体によって経費やベンダーとの契約体制はバラバラ。そんな中で一概に3割減という言葉だけが広がっており、市民からも期待されています。私たちが本当にそれに応えられるかというと、不安でしかない。
関連記事
- スケジュールに無理? 自治体システム標準化・ガバメントクラウドに取り組む現場のホンネ 福島市の場合
スケジュール通りの進行が不安視される自治体システム標準化・ガバメントクラウド移行。現場の受け止め方を、さまざまな自治体の担当者への取材から探る。今回は、福島県福島市に話を聞いた。 - 熊本市「福祉系システムの移行間に合わない」 自治体システム標準化巡り
熊本市の大西一史市長が、政府が主導する“自治体システム標準化”施策について、福祉系のシステムが期限までに間に合わない見通しを明らかにした。 - いまさら聞けない「ガバメントクラウド」(政府クラウド) さくらインターネット参入が注目されるワケ
ガバメントクラウドの基礎知識を整理。さくらインターネットの採択がもたらす影響を考察する。 - 自治体システム標準化、タイムリミット一部緩和
自治体の業務を共通化し、システムもそれに沿ったものに移行する“自治体システム標準化”。当初は2026年3月末の完了を目指していたが、デジタル庁が方針を変更。原則としてタイムリミットは変更しないものの、システム移行の難易度が高いものについては、個別に期限を設定する。 - 始まるガバメントクラウド移行、自治体に求められるセキュリティ対策は
政府やデジタル庁が主導する「ガバメントクラウド」。すでに一部自治体が移行・利用を進めており、今後拡大する見込みだ。一方で、移行に伴う現場の混乱も予想される。特に不安が生まれるのはセキュリティだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.