終わるようで終わらない「AMラジオ」の世界:小寺信良のIT大作戦(3/3 ページ)
2月1日から、一部のAMラジオ局が放送を休止することがわかった。これは、「停波」ではない。最長で来年1月末まで実際に放送を止めてみて、その社会的影響を検証する事になる。
「ラジオ」としてあるべき「ラジオ」
2019年頃にAMラジオがなくなるかも、という話を聴いて、当時はradikoもあるし別に構わないのではないかと思った。だがその後、地方に転居してみると、急激にラジオへの接触率が上がった。車に乗ってエンジンをかけると、自動的にラジオの音が流れ出す。自宅で仕事しているので通勤はないのだが、誰かを送っていったりすれば、少なくても30分、長ければ2時間もラジオを聴いている事になる。
昔はパーソナリティのトークはAM、音楽などはFMと決まっていたものだが、昨今のローカルFMはほぼ昔のAMラジオのように、パーソナリティが延々としゃべり続けたり、Xやメールからのおたよりを読み上げたりと、コミュニティ放送に様変わりしている。
ラジオCMもさかんだ。運転中なのでCMを聴いてすぐ何らかのアクションが起こせるわけではないが、ラジオショッピング番組は非常に盛況である。車からの流れで、手仕事中に聴いている人も多いのだろう。
ラジオの良さは、受信器としてのラジオだけで聴けるところである。radikoだとスマートフォンが占有されてしまうし、結局はネット回線からのライブストリームなので、データ通信容量を消費する。屋外で聴くなら、乾電池や内蔵バッテリーだけで長時間再生できるラジオ受信器のほうがいい。
さらに今年に入って大きな地震もあり、避難について考えるようになると、情報源としてのネット1本頼りに危うさを感じるようになった。4G/5G網が大丈夫かという問題と、情報の真偽判断にはある程度のリテラシーが必要になる。ネットとは別に、免許制度である放送事業者からの精査された情報も、放送波直接受信という形で持っておいた方がいい。
そういう意味では、スマホにラジオチューナーを内蔵した「ラジスマ」は、あんまりいいソリューションとは思えなくなってきた。1つのデバイスに情報源が集中するより、分散させた方がいい。
またラジオは目が占有されないので、手作業していても情報が取得できるというメリットがある。避難生活でやらなければならないこと、例えばひたすら穴を掘るとかゴミを集めるといった作業中でも、情報から断絶されない、孤独に苛まれないという良さがある。いちいち操作が必要なら、作業は進められないだろう。
もう1つ直接受信のいいところは、複数箇所でラジオを受信して音を出していても、ズレがないところである。なぜならば、ラジオは未だアナログ放送だからだ。テレビ放送はデジタル化して20年が経過したが、ラジオはそのままである。デジタルラジオ放送は、衛星放送として行なわれている。
災害持ち出しリュックに古いラジオが入りっぱなしという家庭も結構あるはずだ。2028年までには、日本全国でAM放送を停波してFMへ移る局も結構出てくるだろう。お住まいの地域の移行タイミングで、ワイドFM対応のポータブルラジオや、ラジオ内蔵Bluetoothスピーカーなどに買い換えるのはいいかもしれない。乾電池駆動だったり、防水仕様だったり、ワンセグが付いていたりと、様々なタイプがあるはずだ。そのタイミングで新モデルが登場するかもしれない。
AMラジオの深夜放送を聴きながら受験勉強したという人は、いくつぐらいまでが下限だろうか。まあラジオを聴いている間は勉強してないというのがお約束なわけだが、深夜0時過ぎの記憶として、思い出す人も多いだろう。ああした習慣は今の子ども達にはなく、世代を超えてパーソナリティの思い出を共有できるという世界にはもう戻れない。
だが、トークを聴くというAMラジオの文化は、FMに持ち越される。今はAMとサイマル放送だが、放送システムが変わることで、内容や立ち位置も変わるだろうか。AM停波後のラジオの世界もまた、ちょっと楽しみになってきた。
【訂正:2024年2月15日午後2時】放送大学のFM放送について記述に誤りがあったため訂正いたしました
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