企業「ChatGPTは使っちゃダメ」→じゃあ自分のスマホで使おう──時代はBYODから「BYOAI」へ:事例で学ぶAIガバナンス(3/3 ページ)
会社はChatGPTを禁止しているが、自分のスマートフォンからChatGPT(しかも有料契約している高性能版)にアクセスして、使ってしまえば良いではないか――。生成AIのビジネス活用が進む中でBYODならぬ「BYOAI」という発想が生まれつつある。
理想のBYOAIを求めて
では、どのような形であれば適切なBYOAIといえるのだろうか。まさにそれをいま、さまざまな企業やコンサルティング会社や、Forresterのようなシンクタンクが検討しているわけだが、おおむね次の3つのルールが唱えられているようだ。
第1に、まず必要になるのが、当然ながら全体的・網羅的なポリシーの策定だ。BYOAIに関する明確な方針を示した上で、許容できるAIツールの範囲、倫理原則といった詳細を明らかにし、ツールの使用が企業ポリシーに合致し、各種法的義務に反しないようにしなければならない。またデータを適切に管理し、機密情報の漏えいが発生しないよう、BYOAIに関連するデータガバナンスポリシーを確立することも必要となる。
第2には、これも当たり前の対応となるが、従業員に対する学習の場の提供だ。特にAIが倫理面で抱える問題や、個々のAI企業に対して懸念される法規制違反の可能性については、従業員個々人の対応に任せるだけでは不安が残る。そうした問題について背景情報や理論的知識を提供し、持ち込むツールの選定や許容できる使い方の判断など、従業員自らが適切な意思決定を行えるように学べる場が必要になるだろう。
第3に考えなければならないのは、幅広い従業員からの協力と参画の実現だ。従業員任せでは適切な知識やスキルが確保されないという懸念がある一方で、管理部門の側も、いったい世の中にどのようなAIツールが出てきているのか、そのどれがどのような形で業務に活用される可能性があるかを把握するのは難しい。
そこでBYOAIのポリシー策定や、持ち込みを許可するAIの選定などといった場面において、さまざまな部門の従業員に協力してもらうことで、効率的なオプションの選定と評価が可能になる。
また彼らの協力は、ポリシーの穴を埋める際にも欠かせない。23年にChatGPTが話題になった際も「取りあえずWeb版ChatGPTへのアクセスを禁止しました」で安心してしまい、その後に出てきたBing ChatやBard(現Gemini)、Google SGEなどといった関連サービスへの対応が遅れる企業が見られた。
従業員への学習の場の提供を適切に行い、彼らとBYOAIで協力関係を築いていれば「こういう新しいサービスが出てきているので手を打った方が良い」といったアドバイスを、従業員からいち早く手に入れることができるだろう。
日々登場する高度なAIツールについて、どこまで業務利用を認めるのか。管理部門にとっては頭の痛い問題だが、ここで適切な仕組みを構築できれば、AIの次に来るテクノロジーにも柔軟に対応し、いち早くその価値を享受できるようになるだろう。その意味でも、BYOAIに取り組んでみる価値はあるはずだ。
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