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伝統の手書き「甲子園文字」デジタルフォントで復活 次の100年へ、スコアボードに刻む 甲子園球場100年

プロ野球阪神の本拠地であるだけでなく、高校野球の聖地としても親しまれている阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)が8月1日に開場100年を迎える。球場にまつわるエピソードを4回にわたって紹介しながら、伝統ある甲子園の人気の秘密を探る。

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産経新聞

 プロ野球阪神の本拠地であるだけでなく、高校野球の聖地としても親しまれている阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)が8月1日に開場100年を迎える。球場にまつわるエピソードを紹介しながら、伝統ある甲子園の人気の秘密を探る。

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甲子園球場のスコアボード。来季から「甲子園フォント」が使用される=兵庫県西宮市(水島啓輔撮影)

独特の字体

 甲子園球場を訪れた人なら誰もが目にするスコアボード。真ん中に時計が配された左右対称型で、向かって左側に対戦チームの選手名が並ぶ。1984年に電光掲示方式の3代目スコアボードが誕生するまで、選手名などは手書きの白い文字が使われていたことを覚えている人も多いだろう。

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甲子園歴史館に展示されている昔の選手名板=兵庫県西宮市(丸山和郎撮影)

 当時はスコアボードの中に職人が従事し、黒い板に名前を筆書きしていた。人間味のある独特の字体は「甲子園文字」と呼ばれ、甲子園特有の味わいを醸し出してきた。電光掲示に変わってからも、手書き時代を踏襲したオリジナルの書体が使用されてきたが、今回、開場100年を機に、伝統ある甲子園文字をデジタル化した「甲子園フォント」として生まれ変わらせる動きがある。球場と共同でプロジェクトに取り組んでいるのが、大手フォントメーカーの「モリサワ」(本社・大阪市)だ。

 モリサワの創業者の森澤信夫氏らが世界で初めて「邦文写真植字機」を発明して7月24日で100周年を迎え、球場とメモリアルイヤーが重なる偶然もあった。甲子園歴史館(兵庫県西宮市)に展示されている手書き時代の選手名板も視察し、4、5人のチームでデジタルフォント化に向けた作業に取り組んできた。

 甲子園文字は明朝体をベースにしているものの、「はね」や「はらい」の部分に筆書きの特徴が出ている。担当者の一人で、モリサワのデザイン企画課の梅山嘉乃さんは「横線が細く、縦線が太いといった、コントラストの高いデザインになっている。スコアボードは縦書きで、横幅いっぱいに書かれるため、縦線の印象が強いのも特徴」と話す。甲子園文字の伝統を受け継ぎつつ、現代の実用に即したデジタルフォントを開発できるよう、より多くの人の読みやすさに配慮した「ユニバーサルデザインフォント」をベースとして開発している。

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甲子園文字のデジタルフォント化の作業をする担当者(モリサワ提供)

 高校野球で強豪校として知られる済々黌(せいせいこう、熊本県)など難読文字のデジタル化には苦労もあるが、選手名やチーム名で使われる漢字や数字を中心に、これまでに約3900字を準備してきた。梅山さんによると、文字の端々などに丸みを持たせているのも特徴で、細かなデザインのこだわりも含め、球場側と話し合いながら作成したという。

進化続ける

 デジタルフォントは年末頃に完成する予定で、来春からプロ野球、高校野球を問わずに、スコアボードに「甲子園フォント」が使用される。モリサワの関係者は「これからの100年も甲子園フォントを使っていってほしい」と願いを込める。

 スコアボードは93年にはカラー化されて動画も流れるようになり、2011年にLED化、19年には表示面が大型化され、時代の変遷とともに進化を続けてきた。また、照明も22年からLED化された。甲子園が発祥といわれているノスタルジックな色合いの「カクテル光線」も、白色灯と橙色灯を掛け合わせて再現し、七回裏の「ラッキーセブン」の攻撃時など、音響やビジョン映像と照明を連動させながら、新たな演出ができるようになった。

 LED化された照明について、甲子園球場を運営する阪神電気鉄道の赤楚(あかそ)勝司・球場長代理は「外野の天然芝をより鮮やかに見せるのにも役立っている」と話す。甲子園の伝統を受け継ぎながら、未来につなげていく取り組みが進んでいる。(丸山和郎)

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