“DNAを使ったコンピュータ”で数独を解くことに成功 計算とデータ保存の両方が可能に 米研究者が発表:Innovative Tech
米ノースカロライナ州立大学と米ジョンズ・ホプキンス大学に所属する研究者らは、データ保存と計算機能を兼ね備えたDNAコンピュータを実証した研究報告を発表した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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米ノースカロライナ州立大学と米ジョンズ・ホプキンス大学に所属する研究者らが発表した論文「A primordial DNA store and compute engine」は、データ保存と計算機能を兼ね備えた「DNAコンピュータ」を実証した研究報告である。
DNAコンピュータは、従来のシリコンベースのコンピュータとは異なり、DNAやその他の生体分子を使用して計算を行うコンピュータである。従来の2進法(0と1)の代わりに、DNAの4つの塩基(アデニン、チミン、グアニン、シトシン)で情報を表現する。
これまでのDNAコンピュータは、情報の保存か計算のいずれかしかできなかったが、今回新たに開発したシステムは両方を実現する。具体的には、データの保存や取り出し、計算、消去、書き換えなどの一連の操作を繰り返し行える。
これを実現するために「Soft Dendritic Colloids」(SDC)と呼ばれる特殊なポリマー構造を活用。SDCは、セルロースアセテートなどで作っており、枝分かれするように階層的に分岐した構造を持つ。枝分かれした途中でDNAを吸着させる。
この構造により、データの安定した保存と非破壊的な読み出しを実現。また、この構造は非常に高い表面積と結合容量を持つため、大量のデータ(1立方cm当たり1万TB)を保存できる。
実験では、3つの異なる画像ファイルをDNAにエンコードし、それらを選択的に消去したり読み出したりすることに成功した。また、DNAからRNAを転写することで、元のDNAデータを破壊することなく情報を読み出すことができた。
長期保存性能としては、加速劣化試験の結果から、4℃で約6000年、-18℃では200万年の半減期を持つと推定された。
システムの計算能力を実証するため、簡略化された3×3のチェスと数独を解くデモンストレーションを行い、正解を得ることができた。これは、DNAベースのシステムで論理演算が可能であることを示している。
Source and Image Credits: Lin, K.N., Volkel, K., Cao, C. et al. A primordial DNA store and compute engine. Nat. Nanotechnol. (2024). https://doi.org/10.1038/s41565-024-01771-6
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