陰陽マーク? 「量子もつれ」をリアルタイムに可視化することに成功 国際チームが23年に発表:ちょっと昔のInnovative Tech
イタリアのローマ・ラ・サピエンツァ大学とカナダのオタワ大学に所属する研究者らは2023年に、量子もつれの光子をリアルタイムに可視化する技術を提案した研究報告を発表した。
ちょっと昔のInnovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。通常は新規性の高い科学論文を解説しているが、ここでは番外編として“ちょっと昔”に発表された個性的な科学論文を取り上げる。
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イタリアのローマ・ラ・サピエンツァ大学とカナダのオタワ大学に所属する研究者らが2023年に発表した論文「Interferometric imaging of amplitude and phase of spatial biphoton states」は、量子もつれの光子をリアルタイムに可視化する技術を提案した研究報告である。
量子もつれとは、離れている2つの粒子が互いに強く関連し合い、1つの粒子の状態を測定すると、瞬時に他の粒子の状態が決まる現象のことである。今回の研究では、光の粒子である2つの光子の量子もつれ状態を、リアルタイムで観察することに成功した。
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具体的には、光子の「波動関数」の可視化に成功した。波動関数は、量子力学において粒子の状態を数学的に記述するものである。これは粒子の位置や運動量などの物理量の確率分布を表し、量子系の振る舞いを予測するために用いられる。
このような量子系の波動関数を知ることは困難な課題である。標準的なアプローチ(射影演算に基づく)では、システムの複雑さに応じて測定回数が急激に増加する。そのため、2つの絡み合った光子の高次元量子状態を特徴づけるのに数時間から数日かかる。
研究チームが提案する手法は、デジタルホログラフィーの概念を量子の世界に拡張したものである。デジタルホログラフィーでは、対象物から散乱された光と参照光を干渉させて得られる単一の画像を記録することで、3次元物体の情報を再構築する。
この概念を2つの光子の状態に適用し、量子状態の再構築実験を行った。再構築するためには、既知の量子状態と重ね合わせ、2つの光子が同時に到着する位置の空間分布を分析する必要がある。
重要なのは、これらの光子が参照光の源から来るのか、未知の源から来るのかを識別できないことである。量子力学の原理により、光子の源を特定することはできない。この不確定性が、干渉パターンを生み出す。そして、この干渉パターンを用いて未知の波動関数を再構築する。
この実験を可能にしたのは、高度なカメラ技術だ。使用したカメラは、各ピクセルでナノ秒(10億分の1秒)という極めて短い時間分解能でイベントを記録可能。この高速・高精度な検出能力により、光子の同時到着を正確に捉えることができた。
(a)右上の小さい画像は、実験で使用したビームの形状。左下の画像は、測定結果の干渉パターンを示す、(b)(a)の干渉パターンから計算によって再構築した量子状態で、光子対の波動関数の空間分布を表現。カラースケールは振幅(明るさ)と位相(色)の情報を同時に表現しており、赤や緑の領域は異なる位相を、明るさの変化は振幅の変化を示している。これらの陰陽マークは、この研究で使用された特定の光パターン(ビームの形状)の一例であり、量子もつれという現象自体を表現しているわけではないことに留意したい
この方法の大きな利点は、測定速度が飛躍的に向上したことだ。従来は数日かかっていた測定が、数分または数秒で完了する。さらに、量子系の複雑さが増しても検出時間が変わらないため、より大規模な量子系の解析にも適用できる。
Source and Image Credits: Zia, D., Dehghan, N., D’Errico, A. et al. Interferometric imaging of amplitude and phase of spatial biphoton states. Nat. Photon. 17, 1009-1016(2023). https://doi.org/10.1038/s41566-023-01272-3
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