電子コミックの源流は“PDA”から――「コミックシーモア」が歩んだ20年、朝日代表に聞く:小寺信良のIT大作戦(3/4 ページ)
もはやマンガを読む手段としてすっかり定着した、電子コミック。その中でも老舗とされる「コミックシーモア」も、2024年で20周年を迎えた。そのコミックシーモアを運営するNTTソルマーレの朝日利彰代表に、参入当時から現状の傾向にいたるまで話を伺った。
──話が少し戻りますけども、コミックシーモアって、サービスインした当初は女性向けのマンガが主力だったような気がするんですよね。その背景ってどういうものがあったんでしょうか
朝日:最初に持たせてもらった作品がもう20作品しかなかったわけなんですけども、当時はやっぱり電子コミックなんていうのは、大手の出版社からも疑心暗鬼に思われてた。そんな中で、女性向けコミックの出版社さんは割と協力的だったっていうところはあります。
ただ実際に少ない作品で始めてみると、女性ユーザーの反響がやっぱり大きかったです。
これは想像なんですけど、私たちの若い時っていうのは、普通に表でも電車の中でもマンガを読んでいたんですけども、やっぱり女性でそういう人を見かけることって、ほぼなかったと思うんですね。だから割と女性が外でマンガを読むっていうことが、 ちょっと恥ずかしかった時代なのかなという風にも思うんです。
一方で電子コミックっていうのは、24時間場所も時間も選ばないっていうところで、特に女性に利用されるっていうことが、始めてみてわかったんですよね。ですので女性向けの作品を充実させるとこから始めていったのが、そのきっかけといえばきっかけですね。
──現在電子コミック業界には、30社以上のプレーヤーがいらっしゃいます。これだけの競合プレイヤーがいて、各社どうやって成立しているのか、謎なんですよね
朝日:音楽とか映像の配信サービスっていうのは、かなりここ10年ぐらいでサブスク型に変化してしまったと思うんですよね。ただコミックの配信の場合は、サブスク型、いわゆる読み放題型みたいなのは一部あるんですけど、大半はまだまだアラカルト型なんですよ。これがやっぱり音楽とも映像とも1番違う点だろうなって思う部分ですね。
業界の中でこれだけのプレイヤーがいても成り立っているというのは、作品と出会うことが重要であって、だからこそ書店に違いがあって、そこを回遊するユーザーにとっては意味があるというふうにつながってくるのかなって思います。
──やっぱりそのコンテンツ1個1個の強さとか魅力みたいなところが、このビジネスのキーになるんだろうなっていうのは、お話を聞いててなんとなくつかめてきたところです。 ではそこで、どういうコンテンツを手配すればいいのかっていうところになってくると思います
朝日:映像や音楽と違ってマンガってのは、実はユーザーが知らない作品が最も多いジャンルじゃないかなって思うんですよね。
音楽なんかだと、どこかで聴いたことがあるっていうことがあり得ると思うんですけど、 コミックは本当に読んだことがなければもうほぼわからない。そういうコンテンツの性格を帯びてるって私個人としては思うんですけど。
そういう意味では、そのマッチングをしてあげることに対する付加価値が高いわけなんですよね。ユーザーが自ら探しに行くのがなかなか難しいとも言い換えられるかもしれませんが。
そこに書店としての付加価値を出していく。書店の中のイベントだとか企画を通じて、出会うはずもなかった作品に出会ってもらう、もしくは昔あったんだけどもうない、そうした忘れたものにたどり着いてもらう。
そういう機会を私たちの中で演出する。これも書店の仕事かなと思っています。
──紙の書店と大きく違うのは、販売データをダイレクトに持っていて、解析できるっていうところが大きいのかなという気がします
朝日:そうですね。それはどこでもやられてますけど、ある程度ヘビーに使っていただけると、お客さまの読まれる傾向も分かってきますので、その中で過去作品や新作がおすすめしやすくなります。マッチング精度も上がると思いますので、そういうデータの活用っていうのは、書店としてはしっかりやんなきゃいけない。
だからこう、通り一辺倒に新作が出れば100万人、200万人同時にメルマガを送るっていう、そういうビジネスとは違うのかなって思ってます。
──僕個人がマンガのタイトルに出会うのって、やっぱりSNSのWeb広告が多いかなと思うんですよね。Web広告って作品の一部を切り出して作られるわけですけど、どこのコマをどう切り取って、ここまで見せてさあ続きは……っていう風に構成するのか。そのノウハウって、電子書店ならではのものがあるわけですよね
朝日:はい、ございます。うちにベテランの書店員何人もおりますので、第1話の中でも、限られた広告の中でどう切り出すか。当然、切り出す場所によって売り上げも変わるんですね。もっと言うと、キャラクターが右向いてるか左向いてるかでも変わる時があるんです。
それくらい、熟練した人でないとできない部分もあるんです。それがうまく作れれば、 その作品を収めていただいてる出版社からも喜ばれますし、作家さんにも喜んでいただける。そこは一生懸命やる部分ですね。
──これはやっぱり、職人技みたいなところになってくるんですか。AIでは難しいですか?
朝日:今のところは、職人ですね。もちろん、2つのパターンを一定期間出してみて、どっちがこうユーザーのクリックが多かったとか数値化して見ていくことはあるんですけど、 基本的にこういうクリエイティブがいいんじゃないかっていう、その選別の目っていうのは、書店員の目ですね。
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