校外PC利用が先進国でビリでも「日本はよくやっている」と思う理由 GIGAスクールの次のステップ:小寺信良のIT大作戦(3/3 ページ)
日本は、PCやタブレットを校外で毎日に触れる割合で最低水準だ。一方でスマートフォンの利用時間は、世界との差はない。スマートフォンはコンテンツを消費する道具で、PCはコンテンツを制作する道具だから、学校外でのPC利用率が低いのは問題だ、という趣旨は分かる。しかし、実態を見ると日本は「うまくやっている」ことが分かってきた。
「うまくいっているシステムはさわらない」の原則
米国で子どものPC利用が盛んなのは、ゲーム機として使われているからという視点は無視できない。米国ゲーム市場の中心はPCであり、子どもが欲しがる。これは日本の家庭用ゲーム機に匹敵するパイがある。ハリウッド映画に出てくるキッズハッカーはだいたいPCゲームオタクだが、あれは米国にはよくいるタイプなのである。
では日本でもああいう子たちを増やしていくべきなんですかね? と言われれば、それは違うだろう。筆者はインターネットユーザー協会代表理事としてICT教育の旗振りをしてきたものの1人ではあるが、それはICTが扱える者と扱えない者との格差が拡がる事を懸念したからだ。
だが誰もがICTが扱えるようになったら、その次に目を向けるべきタイミングである。アプリケーションやネットサービスの開発はPCが有利だろうが、それを全員がやる必要はない。作物を育てたり、家を建てたり、教育をしたり、都市に公園を作ったりすることは、15歳からPCを家で触ってたこととは関係ない。
これは日本が、1964年という早い時期にOECDに加盟し、いわゆる「先進国クラブ」への仲間入りを果たした、成熟した国家であるというところと関係がある。国家が成熟すると、「あり得ないこと」は起こりにくくなり、新しい発明や発見の余地が小さくなる。
90年代のバブル崩壊以降、日本にずっと閉塞感があるのは、社会システムが成熟してしまったからだ。だがその社会システムでは、いよいよ立ちゆかなくなってきたのが今である。
次に起こるのは、「広義の編集」だ。ゼロから何かを産むのではなく、これまでの既存システムをいったんバラして組み替えたり、システムとシステムを思ってもみない方法でつないだりして、新しい価値を創造する行為である。
それは、必ずしもIT上で起こるとは限らない。社会を変える、社会を動かすとはすなわち、すごい人とすごい人を出会わせたり、ものすごい人数を集めてきたりといった、人を動かして事(こと)を起こすことであり、ある意味で「コミュニケーションのオバケ」みたいな人材が大量に必要になるタイミングが来る。そういう人が生まれてくるスキも作っておかなければならない。
子ども達に家庭でもPCを使わせろという人達もでてくるだろうが、筆者の技術者としての経験からすれば、「うまくいっているシステムはさわらない」ことをお勧めする。日本の教育は、失敗していなかった。いじるなら、うまく行かなくなった兆候が見えてからだ。しばらくは日本の教育者に任せて、様子をみようではないか。
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