安い電気を“買いだめ”するという発想 ポータブル電源は「家庭用蓄電システム」の夢を見るか:小寺信良のIT大作戦(3/3 ページ)
2023年度、出力制限量が全国で計約19.2億キロワット時に達したことが明らかになった。約45万世帯分の年間消費電力量に匹敵する電力が、無駄になったことになる。そこに家庭用蓄電池を挟んで、電気料金の安いタイミングで充電し、高いタイミングで放電できないか、という実証実験がスタートする。
想定される2つの「宿題」
余剰電力の廉価販売は、Looopのような小売事業者だけでなく、電力大手でも行われている。例えば九州電力では、太陽光発電が余る時間帯には「使っチャレ」というチャレンジ企画を実施している。これは指定された時間に通常以上の電力を使うと、その分がPayPayポイントで還元されるという仕組みだ。
筆者はこうしたイベントが発生するたびに手動でポータブル電源への充電時間をセットしているわけだが、こうしたことが自動化されれば、電力会社にとっても利用者にとっても大きなメリットがある。
ただポータブル電源への充電は、安いからといっても充電容量には限度があるし、高いからといって放電しっぱなしにしても容量がそこを突く。1日の電力利用をサイクルとして勘案しながら、明日は電力が安くなる予報だから前日にはなるべくバッテリーの空きを多くしておこうとか、雨が続くから安くはないが、強いていえば安いといえる時間帯を探して充電するといった、細かい傾斜配分が必要になる。
そうした毎日変化する事情への対応が、YanePortのアルゴリズムに要求される。さらに言えば、ユーザーのバッテリー残量はまちまちなので、それにも自動対応する必要がある。おそらくAIを使って1台ずつ個別に制御することになるのだろうが、そのAIを鍛えるための、1年間の実証実験ということだろう。
もう一つの宿題、というか懸念としてあるのは、そもそもこうしたサービスが成立するのは、太陽光発電のせいで電力料金が時間変動するからである。だがこうした変動に対応すべく、現在系統電源に接続する大型蓄電施設の建設が、日本全国で活性化している。系統電力用蓄電施設の運用も、電力事業者として正式に認可されたからだ。オリックス、KDDI、石油資源開発(JAPEX)、日本蓄電、東京ガスなどの大手企業が続々と名乗りを上げている。
こうした大規模な系統電力蓄電施設が稼働を始めれば、電力料金の市場価格も変動が抑えられ、平たん化する可能性がある。つまり料金の差を利用しての利ざやで稼いでいる電力小売ビジネスは、次第に成立しなくなっていくのではないだろうか。
電力小売側は何を思う?
この問題をLooop戦略本部GX推進部エネルギーイノベーション課の野村勇登(はやと)課長にぶつけてみたところ、「むしろ望むところだ」という。
そもそもLooop自体が系統電力用大規模蓄電池事業に参入しているのに加え、Looopのビジョンが、限りなくエネルギーコストを下げて持続的な豊かさを実現できる社会を作ることにある。従って、価格が平均化されることで全体の電気料金が下がることは、会社のビジョンに一致するというわけである。
同時に、完全に平たん化する未来まではまだ相当の時間がかかるとも見ており、そこに至るまでにはまだ多くのプロセスが存在する。今回の実証実験は、そうしたプロセスの一つとなる。
一般的なメガソーラー施設については、景観を害するとして次第に認可されづらくなっている。だがその一方で、ペロブスカイト太陽電池が実用化されれば、オフィスビルの窓全体で発電するなど、ビル自体がメガソーラー化する可能性もある。太陽光発電は、今後減少も停滞もないと考えるべきだろう。風力にしても水力にしても、再エネであれば常に自然の気まぐれな現象に左右されるリスクがあり、その割合が増えれば増えるほど、平たん化の需要も大きくなる。
系統電力だけでなく、各家庭でも連動してバッファーしていくという方法は、一見効力は小さいように見える。カリフォルニアの例のように、全体の10%程度というのがいい線なのだろう。とはいえ、だ。消費者に直接的な恩恵があり、防災対策にもなるという点では、新築住宅に太陽光パネル設置を義務化するよりも意義深い方法ではないだろうか。
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