ソニーの謎ソリューション「Contents Production Accelerator」、よく分からなかったので詳しい話を聞いてきた:小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(3/3 ページ)
11月に開催された「Inter BEE 2024」のソニーブースでは、各種クラウドソリューションが前面に押し出されていたわけだが、その中でよく分からなかった展示が、「Contents Production Accelerator」である。来場してソニーブースに立ち寄った人は多いと思うが、これは一体何なのか、詳しい話を聞いてみた。
これからのキーは「ニアライブ」
現場で起こっていることを撮影し、いち早く電波に乗せるというのは、報道の究極の形である。そのために中継車があるわけだが、中継車の数には限りがある。日本では法的な問題で実現しなかったが、ソニーでは2000年以前から衛星回線を使い、カメラとその周辺機器だけで局へ映像を直接送るというソリューションを、Betacam SXでやろうとしていた。
その後4Gや5Gといったキャリア回線の高速化により、LiveUやTVUPackを使って映像をライブでストリーミングするという手法が一般化された。だが実際には、フレーム落ちや遅延なしで放送品質のライブ映像を保証するのは、大変リソースを食う。出払っているあらゆるカメラにそれらの機材を搭載するわけにもいかず、また受け側のサーバにもリソースの限界がある。
そこで昨今注目されている技術が、カメラの録画中にある程度の量がたまったら、そこから順次小分けファイルとしてクラウドに送るという手法である。最小が30秒単位のぶつ切りなので、ライブではない。最低でも30秒遅れになる。だがライブストリームを送るのではなくファイル転送なので、均一なスピードが出なくても構わない。
待ち構えるクラウド側は、最初の30秒が届いた時点でファイル化するが、次が届けばそれを同じファイルに継ぎ足していくので、ファイルはどんどん伸びていく格好になる。最初にファイルができた時点で、プレビューや編集作業が開始できる。つまりライブではないが、「ニアライブ」ではある。
編集が前提であれば、実際にはこれで十分だ。これまではカメラが局に帰ってこなければ着手できなかった編集が、現場から30秒遅れで着手できる。送るのはプロキシだが、昨今はフルHD解像度のH.264で16Mbpsぐらいある。そもそも地上波放送が1440×1080解像度でMPEG-2の16Mbpsしかないわけだから、それだけあればオンエアに耐える画質だ。
こうした転送方式は「チャンク転送」と呼ばれ、ソニーのカメラではPXW-Z280、今年9月に出たPXW-Z200、シネマラインのFX6が対応している。現在ソニーには、5G対応ポータブルデータトランスミッタ「PDT-FP1」という製品がある。スマホ技術を使ったカメラ映像伝送器だが、これと上記のカメラを組み合わせることで、キャリア回線経由のチャンク転送が可能になる。「Contents Production Accelerator」は、このチャンク転送による「ニアライブ」をフル活用するシステムとなる。
撮影している最中にどんどん映像が転送され、編集にかけられるというソリューションは、もう30年ぐらいあれやこれやと各社が模索し続けているわけだが、コスト面やリソース面で常用できなかった。「Contents Production Accelerator」によって、これがようやく実用レベルで普及しそうだ。
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