放送システムを「ソフトウェアベース」で作るには FOR-Aならではのアプローチと、“フルIP化”への懸念:小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(3/3 ページ)
2020年のコロナ禍や働き方改革といった流れ、あるいは地方におけるハードウェア技術者不足により、テレビ局内のワークフローは大きく変える必要性が出てきた。放送機器を手掛けるFOR-Aこと朋栄でも、過去10年来続くIPソリューションに対応すべくビデオサーバなども製品化しているが、ここ2〜3年で急速にハードとソフトの両対応を進めている。
「IPだけ」でシステムが組めるか
既存システムの機材更新が迫っている放送局も多く、今後はこうしたソフトウェアのシステムだけになってゆく……と考えられてきたが、どうもそういう未来を安易に予想することができなくなってきた。
事の発端は、昨年7月に起こったテレビ朝日の放送事故である。ネットワークスイッチ内のメモリでエラーが発生し、送出サーバが制御不能になったという。番組送出サーバはバックアップも含めて3系統あり、監視システムも2系統あった。問題のネットワークスイッチは監視システム側にあり、2台の監視システムがループ障害を起こしたため、大量のデータが流れてきて送出系の3サーバが操作不能になった、という経緯のようだ。
ネットワークスイッチのエラーの原因は、その後の調査検証で「中性子線の衝突」とされた。原因の特定方法などについては賛否あるところだが、ネットワーク上の何らかの障害が、システム全体の制御不能につながる具体的な事故が起こったことで、バックアップシステムの構築法を再考せざるを得なくなった。
テレビ朝日の場合は、マスター設備で障害が起こったために影響も甚大だったが、制作のあちこちがIPベースでつながった状態になれば、末端の故障の影響がシステム全体に及ぶということも考えられる。仮にIPライブシステムが制御不能になった場合、どのようにバックアップを構築すべきか。
旧来のSDIベースの放送システムも、現存するならバックアップシステムとして残しておいて、ハイブリッドで運用していくという方法も考えられる。だがその場合、IPシステムの特徴である省人化や効率化ができなくなる。もしものために余剰人員をスタンバイさせておくのであれば、結果的に省人化もできないことになる。
昨年のテレビ朝日の障害は、今後システム更新する放送局のバックアップシステムの作り方に大きな問いを投げかける。省人化が必要なのは、人を減らしたいのではなく、すでに人がいなくなっているからだ。この対応は避けられない。
25年はFOR-A IMPULSEやソニーContents Production Acceleratorなど、複数の放送IPシステムが登場してくることになる。実際に導入するとなれば、じゃあ現実問題としてバックアップシステムはどこまでやるかということも、議論になっていくだろう。
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