「フォルダ名をゴミに変更」「電話の連絡帳に登録」――アイルランドの高齢者のパスワード管理法が“独特”すぎた:Innovative Tech
アイルランドのMunster Technological Universityに所属する研究者らは、高齢者のパスワード管理に関する現状を調査した研究報告である。
Innovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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アイルランドのMunster Technological Universityに所属する研究者らが発表した論文「“I’m 73, you can’t expect me to have multiple passwords”: Password Management Concerns and Solutions of Irish Older Adults」は、高齢者のパスワード管理に関する現状を調査した研究報告である。
研究チームは、アイルランドの高齢者(59〜86歳)37人におけるパスワード管理の認識や習慣などを調査するためにインタビューを実施した。
調査結果によれば、73歳の参加者は「複数のパスワードを管理できるわけない」と不満を述べた。複数のパスワードを管理することは高齢者にとって大きなストレス源となっている。またデジタルパスワードマネジャーやパスフレーズの採用には著しいためらいが観察され、独自かつ非公式な保存方法を採用する傾向が見られた。
例えば「電話の連絡先としてパスワードを保存する」「メールで自分に送信する」「物理的なノートに記録する」などの方法が挙げられた。ある参加者はデスクトップ上のパスワードフォルダを「ごみ」と名付け直すといった方法も採用していた。
パスワード作成においては、生年月日や結婚記念日などの個人情報を使用する傾向があったが、より複雑な方法として、よく知っている言葉と記号や数字を組み合わせたり、アイルランド語を取り入れたりする参加者もいた。自動生成パスワードを使う人もいたが、次回のログイン時に覚えられないことやパートナーとアカウントを共有する際の困難さが課題となっていた。
(関連記事:“パスワード変更”をユーザーに定期的に要求はダメ 米国政府機関が発表 「大文字や数字を入れろ」の強制もNG)
高齢者の多くは、パスワードマネジャーに対して不信感を抱いており「コンピュータやクラウドに保存すると、どれだけ安全なのか。私にはコントロールできない」といった懸念を示した。一方「銀行に多くのお金を預けていないから、盗まれても世界の終わりではない」という考えから、同じパスワードを再利用したり、単純なパスワードを作成したりする参加者もいた。
パスワード管理における課題としては、頻繁なパスワード変更と増加するパスワード数への不満が繰り返し語られた。「パスワードを定期的に変更すべき」という従来のセキュリティアドバイスが広く浸透している一方で、多くの参加者はその変更プロセス自体に困難を感じていた。
皮肉なことに、セキュリティ向上を意図したこの慣行が、実際には混乱を招き、より脆弱なパスワード管理習慣(同じパスワードの再利用など)を促進する結果となっている
Source and Image Credits: Sheil, Ashley et al. “”I’m 73, you can’t expect me to have multiple passwords”: Password Management Concerns and Solutions of Irish Older Adults.”(2025).
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