そろそろ、忖度抜きで「iPhone 16e」の話をしよう:小寺信良のIT大作戦(3/3 ページ)
2月28日に発売になった「iPhone16e」は、10万円を切る価格であったものの、従来の廉価モデルであったSEシリーズと比べれば高いということで「そんな価値あんの?」という話になっている。スマホのスペックにこだわる人ほど、わざわざこれを選んで買わないだろう。多くの記事が指摘するが、何で筆者が16eを買ったかというと、他の人と評価点が違うからである。
iPhoneの本当に評価すべきところ
個人的にはAndroidと2台持ちなわけだが、その状態において、iPhoneにはきちんとiPhoneの役割がある。それは、セキュリティやプライバシー保護の面で、Androidよりも頼りになるということだ。
決済関係、例えば交通系カードとかクレジットカード、タッチ決済などの機能はiPhoneにしか設定していない。また銀行アプリやトークンも、iPhoneだけにしか入れていない。またマイナポータルやデジタルヘルスなどの個人情報サービスも、iPhoneのみでしか使わない。
これはGoogleよりAppleのほうが信頼できるという、ある意味宗教的な信心という事ではない。もともとiOSでは、いわゆる野良アプリをインストールする手段がなく、勝手に妙なものが入る余地がない設計であることはよく知られているところだ。
逆にAndroid機は野良アプリもインストールできるので、検証などを行うためにさまざまなバックグラウンドを持つアプリを入れ替わり立ち替わりインストールしたりアンインストールしたりしまくっている。また動作検証のために常時開発者モードで動かしているため、セキュリティが甘くなりがちという、使用環境的な問題もある。
もちろん中にはiPhone用しか存在しないアプリや、両対応しているがAndroidでは挙動が変というものもあるので、そういう場合は仕方なくiPhoneを使う事になる。ただそれはあまり多くない。
家族のスマホも皆iPhoneである。家族のスマホの不調・不具合のサポートは父親に回ってくるという家庭は多いと思うが、iPhoneはその点でもあまり面倒がない。
OSや本体、アプリのバージョン違いが発生したり、アプリの機能が使える、使えないが違ってくることも、特にこれまで経験がない。これはiOSのアプリ内でHTMLレンダリングエンジンを参照する場合、Safari系のWebKitを必ず経由することになっているので、iOSのアップデート時にこのエンジンも一斉に最新版に更新されるという構造になっているからだ。
ところが、だ。2025年12月までに施行される「スマホソフトウェア競争促進法」によって、この安定構造が崩れることになる。iOSアプリのWebKit統一というルールを解放しろ、さらにApp Store以外からもインストールできるようにしろというのだ。
その他のエンジンと言えばGeckoとかBlinkとかになると思うが、これらはiOSとリンクしないので、OSのアップデートと一緒には更新されない。つまりiOS内にインストールされたサードパーティーエンジンを自分で探して更新しない限り、ある日を境にアプリが突然動かなくなるようなことが起こる。しかもそのサードパーティーエンジンはApp Store以外からもインストールできるようになるので、そっちから入れたらアプリの自動更新も働かない。
「なんにもしてないのに壊れた案件」が来年あたりからiPhoneで発生することになる。全国の無償家族サポート係たる父ちゃんたちからしてみれば、「めんどくさ!」という話であり、「誰がそんなことしてくれって頼んだ?」という話である。
iPhoneのメリットは、純正のままで十分役に立ち、仕組みがよく分かってない人に使わせても問題がおこりにくいという事に尽きる。子供に初めて持たせるスマホとしても、妥当である。カメラが2つだ3つだとか、そういうところは問題ではない。
まったく当たり前すぎるようなところに、実は本質的な価値がある。もはや10万超え当たり前で高止まりしていたiPhoneだが、型落ちや3年も4年も前の廉価モデルを探して買わなくても、10万円を切る価格でOSサポート期間も長い最新モデルですよ、という点に16eの価値がある。
日本には、iPhone以外の情報機器を使ったことがないという人がたくさんいる。OSの意味が分からない人も大勢いるのだ。そういう人達にも公平に情報にアクセスできる機器として、iPhoneが果たしている役割は大きい。「スマホソフトウェア競争促進法」がどういう施行になり、それに対応したiOSがどのようになるのかまだ不透明ではあるが、このメリットを維持するには、従来通りの純正のままでいられる、という選択肢が消費者に提供されるべきだ。
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