アニメ「Ave Mujica」制作の舞台裏――監督と制作会社代表に聞く、“圧倒的な内製化”がもたらしたもの:まつもとあつしの「アニメノミライ」(3/6 ページ)
ガールズバンドをテーマとしたアニメがここ数年ブームとなっている。2025年3月にエンディングを迎えたTVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」もその1つだが、数あるガールズバンドアニメの中でも、際立った存在感を放っている。本作はどのようにして生まれたのか? IT色の強い制作現場構築の過程など、監督・制作会社代表に詳しく話を聞いた。
「CG臭さ」を無くせ! 繰り返された反省会
――先ほどアニメ「BanG Dream! 2nd Season」でのファンの否定的な反応も覚悟されていた、というお話もありましたが、「It's MyGO!!!!!」「Ave Mujica」では細やかな表情、所作がドラマに深みを与えていて、手描き作画アニメをしのいでいるのではないか、と思うカットもあるように思えます。表現をここまで磨き上げてきたのは、どのような過程があったのでしょうか?
松浦:僕たちは新しい作品に取り掛かるとき、いつもテーマを決めています。「It's MyGO!!!!!」「Ave Mujica」のときは「CG臭さを無くそう!」でした。作り終わったあとの反省会もみっちりやってます。劇場版「BanG Dream! ぽっぴん'どりーむ!」(2022)のころも、すごく長い箇条書きを作りましたね。
柿本:(笑)。ありました、ありました! クレーム満載のね。「なんでスカートが座ったときに曲がらないんだ!?」とか。
松浦:いっぱいあるんですよ。僕からもいっぱい出しました。「このハイライトは変だろ!」とか。そもそもCGでかわいくない部分があるぞ、と。僕たちは、サンジゲンは変わらないといけない! と言って、やれるかもしれないけれど、制作ラインにはのっていない改善に挑戦してみよう、といってやってみたのが劇場版「ぽっぴん'どりーむ!」だったんです。
取り組みとしては、洗い出された改善を目いっぱい詰め込む、つまり手描き作画に近づける手法を取り入れた「スペシャルカット」を決めて、おカネと時間を掛けても良いから作品制作のなかで実践する、というものだったのですが、当時はまだそれができるカットが10数カットと少なかった。
柿本:そうでしたね。かなり厳選しました。
松浦:でも、結果うまくいったね。
――その改善というのは、ガルクラのようにレンダリングした結果そのままを手描き作画に近づける(いわゆる「一発出し」)ということでしょうか?それとも以前(※)、松浦社長に伺った、レンダリング後の修正を伴うものですか?
※劇場版公開中「蒼き鋼のアルペジオ −アルス・ノヴァ−」がアニメに与えたインパクトとは?
松浦:一発出しではないですね。修正の方法を変えたんです。絵を描くスキル・センスがまだ十分ではない作業者でも、そういうカットが量産できることを目指したわけです。もう少し詳しく言うと、基本的には「全身ではなく、腰から写っている」カット全てが対象となります。おおよそこれが全カットの半分くらい。その中から「情報が足りていない」「うまく行ってない」ものについて、「もう少し何とかしたいよね」と検討をしていく。
柿本:デッサンが取れていないなど、3Dモデルの都合で歪(いびつ)になっているところですね。
松浦:アオリとか俯瞰はどうしても3DCGは苦手なので、直さないといけない。ちょっと横を向いたときの鼻の位置、口の位置もうまく変えてあげないといけない。そういうカットを抽出したときに、まず気が付くのは特に女の子のキャラクターはハイライト(光源からの光がオブジェクトの表面で反射し、明るく見える領域)が足りていなくて、ディテール(細部)が表現できていないことが圧倒的に多いのです。男性キャラは逆に影がきちんと入っていれば引き締まった印象を与えることができるので、そこをしっかり押さえる必要がある。
分かりやすく大きく言えばこの2点が挙げられるのですが、前作の作画監督に「こういうカットだったらこう描く」というサンプルを出してもらい、それをセカンダリーのアニメーターにもできるように、彼らがポイントを伝えるということをしつこくやりました。
そしてその教えをうけたアニメーター――彼らの中には手描きでがんばって描く人もいますし、コンポジット(映像合成)ソフトで、マスク(効果を出す範囲指定機能)を駆使して表現する人などさまざまですが――、いずれにしても絵を描くことが本職ではないスタッフが行えるようにすることによって、スペシャルカットの量産ができるようになったのです。
――地道な訓練ですね。時間も掛かりそうです
松浦:そうですね。ただ、感覚や経験に頼って「うまい作家のマネをする」のではなく、「こういうときはこうする」というノウハウ、直すべきポイントをはっきりさせたというのは大きかったと思います。例えば、こういうカットでは眉毛を描く、さらにここに影を加えるといった具合にです。
柿本:手描き作画の世界でいうところの、作監(作画監督)修正集みたいなものですね。
松浦:そうだね。それを3DCGのキャラクターに対して作っておく。「絵をうまく描く」という作業とは全く次元の異なるルールブックとして。
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そうして数年間をかけて改善を図り、劇場版「ぽっぴん'どりーむ!」では10カットくらいだったところを、そのノウハウをそこからの作品、例えばボーイズバンド作品の「from ARGONAVIS」(アルゴナビス)など、全てに投入していきました。
柿本:「It's MyGO!!!!!」「Ave Mujica」では100〜150カットに及んでいます。
松浦:効率化、量産化が進んだ結果ですね。
柿本:システムが構築されたので、入社したばかりの人もすぐに対応できるようになりました。そして、副次的な効果として、彼らが一人前(ファースト)のアニメーターになった際に、かわいい・きれいな絵が描けるようになったのです。
松浦:絵をマネするだけだとつかめなかったコツ、極意が明示・共有された結果だよね。
柿本:手描き作画アニメの場合は、作監修正や動画検査からの修正指示をもらって「これが良い絵なんだ」ということを修得していくのですが、それと同様のことを3DCGアニメで行えたということになると思います。
松浦:僕がアニメ作りで何か新しいことに取り組む際、最も気を付けているのは「それが制作ラインに乗るのか?」という点です。ピンポイントですごく良いものができても、それは再現性がない。「良い絵とは何か?」という課題の洗い出しについては力づくでもおこなって、抽出されたポイントについては量産可能な手順に整えて制作工程に下ろして変えていくということを地道にやってきました。
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