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16万円の「ガチ冷却ベスト」の威力 医療機器のノウハウが詰まった「アイシングギア ベスト2」レビュー小寺信良のIT大作戦(2/3 ページ)

猛暑でさまざまなクールテック商品が世に出ているが、BtoBの世界においてもペルチェ水冷ベストが販売されている。それが日本シグマックスのMEIDAID「アイシングギア ベスト2」である。価格は直販で約16万円とかなり高価だが、会社で導入するタイプの商品なので、普通はなかなか試す機会がないのだが、実機を借りることができたので試用レビューをお届けする。

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現場ニーズから生まれた、ベストと冷却別体設計

 日本シグマックスは、元々医療用ギブスやサポーターなどの大手だ。筆者も以前腰痛で整形外科を受診したときに、同社製の腰痛サポーターを処方して貰ったことがある。

 こうした技術を生かして、2016年に一般向けウエルネス商品ブランド「MEDIAID」を立ち上げた。薬局のサポーター売り場でロゴをよく見かけるはずである。

 ペルチェ空冷ベストとは、電圧をかけると温度が下がるペルチェ素子を使い、それで水を冷やしてウェア内をポンプで循環させるという仕組みだ。以前から単純にタンクの水を循環させるだけの水冷ベストは存在したが、水を冷やす機構がないため、一定時間経つと体温に近くなり、冷えを感じなくなる。また氷水などを使っても、氷が溶けるまでの命であり、時間的にそれほどは持たない。

 こうした問題を解決するために、23年に世界で初めて、日本シグマックスがペルチェ素子を使った水冷循環装置である、初代「アイシングギア ベスト」を開発した。


初代「アイシングギア ベスト」

 薄いシート状になった冷却パッドの中を、タンクなしで水を循環させるというところに特許技術がある。多くの水冷ベストは、冷却シートの中を細かいチューブが走る構造になっているが、アイシングギア ベストでは「面」の中を循環している。

 これには元々同社が、医療機器として冷却療法装置「アイシングシステム」を開発していたという経緯がある。これはケガや手術後の患部を冷却して回復を早めるという装置で、冷却パッドは関節部などどこにでもフィットするよう設計されている。初号機は1997年に登場しており、23年には新モデルが出ているという、今なお医療の最前線で活躍する装置だ。この装置も、タンクレスではないものの、特殊冷却水をペルチェで冷やして循環させるという構造をとっている。つまり、ペルチェ水冷で人体を冷やす元祖がこれ、ということになる。


冷却療法装置最新モデル「アイシングシステムCE4000II」

 「アイシングギア ベスト」の特徴は、制服を着ることを前提とした設計になっていることだ。前作は制服の下にベストを装着し、制服を着て、その上着の下からお尻の方に冷却装置部を垂らすといった構造だった。

 だが、ツナギの制服で装着できないという声が上がってきた。確かに自動車関係の工場では、ツナギの制服はよくある。そこで25年5月にリリースしたアイシングギア ベスト2では、ツナギの制服でも装着できるように、冷却機構部を別体にした。水冷用のパイプが通る穴さえあれば、装着できる。

 まずインナーとも言える冷却部から見ていこう。内側に循環シートを配したベスト状になっており、ベスト自体は伸縮性のある素材でできている。このあたりは同社が長年取り組んでいるサポーターなどの技術が生きている。最初にファスナーを閉めるときは若干きつめの気がするが、ベスト全体で密着してくるので、ベルトで留めている感が少ない。


冷却部となるインナーベスト

内部の冷却パッドは特許技術を含む自社設計

 ここから水道水が通るパイプが伸びている。先端は着脱可能なジョイントになっており、コネクタ内に弁があるため、中の水が流れてくるようなことはない。


止水弁のついた特殊ジョイント部

 冷却装置部は別のベストになっている。つまり冷却用を中に着たあと制服を着て、さらにその上に冷却装置部のベストを着用するという、サンドイッチ構造になる。


アウターとなる冷却装置部とバッテリー

 冷却ユニットはブランドロゴが入った専用設計で、裏面から吸気、表面排気となっている。手前にヒートシンク見えるが、その奥に大型ファンがある。ペルチェ素子と水冷却部分はその脇にあり、ヒートパイプで接続されている。


大型ヒートシンクとファンを備える冷却ユニット

 電源は、冷却ユニットの裏面にUSB-Cのケーブルを挿して、付属バッテリーと接続する。付属バッテリーは5万6000mAhで、最大出力がPD 100Wとなっている。これで約5時間駆動できる。バッテリーはPD 65W以上であれば、汎用品でも代用できる。


付属バッテリーは5万6000mAhとかなり大型

 興味深いのは、電源の入切だ。USB延長ケーブルとUSBケーブルを直接抜き差しするだけというシンプルさである。電源スイッチを設けなかったのは、開発時間の関係ということもあったが、実際にスイッチを付けてしまうと、バッテリー側の仕様によってはバッテリー側の電源もいちいちONにしなければならないケースがあるということで、ケーブルの直接抜き差しとした。


電源入切はUSBケーブルの抜き差し

 ある意味大胆な方法だが、現場作業者によっては厚手のグローブを装着している場合もあり、スイッチが押せない可能性もある。またスイッチが壊れたら製品全体が使用不能になってしまうというリスクがあるが、ケーブルの抜き差しならグローブをしていても可能だし、ケーブルは断線したら交換すればよい。シンプルながら十分、理に適った方法だ。

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