記録的猛暑なのに、「節電要請」が発令されないワケ:小寺信良のIT大作戦(2/3 ページ)
夏の電力需要ひっ迫は、最近ではもっぱら夏の風物詩と化しているが、事の発端は2011年の東日本大震災である。だが24年から今年にかけては、節電要請ではなく「省エネ・節電協力の呼びかけ」へと軟化している。電力需要が減っているわけではないと思われるが、なぜ節電要請が出なくなったのだろうか。
一方、日々変動する電力需要に対して、何がどのようにカバーしているのかについては、自然エネルギー財団が公開している電力需給チャートから知ることができる。執筆時点での直近のデータは7月15日までであるが、そこから逆算して1週間分の全国チャートを見てみる。
これによれば、原子力をベースに、石炭・石油・天然ガスなどの火力を上乗せし、日中のピークは太陽光発電で稼ぐ。日が暮れてきた夕方は水力で足し、細かい調整は出力が制御しやすい天然ガスで行っている様子がわかる。ガスによる発電は大型ガスタービンで行うが、この構造はジェットエンジンに似ている。つまりスロットルによる調整に、かなりリニアに反応できるのである。
ピンクでマイナスに振れているのは、揚水発電の揚水である。つまり太陽光発電の余剰電力で位置エネルギーをチャージし、夕方に太陽光発電が下がってきた部分の足しに揚水発電を回すという様子も伺える。
このチャートはエリア別にも表示できるので、東京電力エリアを見てみよう。全国と比較してわかるのは、ベース電力の原発がないという、特殊な構造になっている。その代わりにかなりの電力を天然ガスに頼っており、コスト的には割高と思われる。
また需要ピークの山と谷がかなり深い。これが都会型需要の特徴だろう。また山の部分には、「全国」では見られなかったグレーの部分がある。これは系統連携により、他のエリアから電力を借りてきているという意味である。
同じく自然エネルギー財団のチャートでは、連携線潮流マップも表示できる。7月15日の12時から12時半の潮流を見てみると、東京電力管内には東北から4.8GW、中部から1.5GWの電力を借りてきているのがわかる。
中部エリアは、最初に見たように今年は供給力不足である。それでも東京エリアに送電しているのは、中部と東京間にしか、60Hzと50Hzの周波数変換設備がないからだ。したがって中部は関西から借り、関西は中国から借り、中国は九州から借り、といった具合に、電力をリレーして自分ところの分ももらいつつ、最終的に東京まで送っているのがわかる。
この周波数変換設備は、現在210万kWだが、27年度中には300万kWに増強される見込みとなっている。また東北・東京間や北海道・東北間の連携線も、27年度にはさらに増強される。
東京電力管内では、現在新潟県の柏崎刈羽原子力発電所の6号機・7号機再稼働に向けて準備を進めているが、地元の同意が得られるかが焦点になっており、見通しが立たない状況だ。このまま原発のベース電力なしで走り続けるなら、系統連携による電力融通は必須となる。元々系統連携は、各エリアのエネルギーインフラが機能不全に陥った場合のバックアップとして構想されたが、再生可能エネルギーは地域依存性が強いため、成果を日本中に分配するなら常用にシフトするしかない。
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