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日本版“IT投資ブーム”到来なるか? 「減価償却費を即時計上」要望に見る特需の可能性(1/2 ページ)

経済産業省は、2026年から5年間の時限措置として、設備投資にかかる減価償却費を初年度に一括で計上できる制度の創設を財務省に提案している。この制度が実現すれば、企業の税負担が軽くなり、大規模なIT投資を前倒しで実行するインセンティブが生まれる可能性も。

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しごと発掘ラボ

 日本のIT業界には、ここ最近、静かに不景気の空気が漂っています。求人の減少、報酬水準の停滞、そして採用選考の厳格化など、エンジニアや採用担当者の多くが肌で感じているのではないでしょうか。

 そのような状況下において、新たな起爆剤となり得るのが、2026年度の税制改正要望です。経済産業省は、2026年から5年間の時限措置として、設備投資にかかる減価償却費を初年度に一括で計上できる制度の創設を財務省に提案しています。

 もしこの制度が実現すれば、企業の税負担が軽くなり、大規模なIT投資を前倒しで実行するインセンティブが生まれます。特に、自社開発やクラウド導入、SaaS構築などを含む“攻めのIT投資”が活発化する可能性が高まります。

減価償却の即時計上とは?

 設備投資の多くは、本来であれば複数年にわたって減価償却されます。例えば、自社で数千万円規模の業務システムを導入した場合、その費用は5年や10年といった期間に分割して経費として計上するのが通例です。

 しかし、今回の税制要望では、初年度に全額を損金算入できるようにする仕組みを提案しています。これにより、企業は利益を圧縮し、法人税の負担を軽減できるのです。即時計上に加え、税額控除(いわゆる税制優遇)もあわせて検討されており、企業の投資意欲を後押しする複数の施策が同時に議論されています。

 このような税制変更が実現すると、「今こそ投資すべき」という経済的な合理性が生まれます。そしてその投資の矛先の一つとして、IT分野が強く意識されることは間違いないでしょう。

米国の教訓──Section 174と“ITバブル”の軌跡

 税制とIT投資の連動性は、すでに米国で実証されています。コロナ禍直後の2020〜21年、米国では「コロナ禍の金余り現象」として余剰資金がテック企業へと流れ、空前のIT投資ブームが到来しました。

 特に“ニューノーマル”に関連したDX、SaaS、そしてスタートアップを中心にソフトウェアエンジニアの需要が急増し、高水準のオファーが提示される状況が広がりました。

 しかし、22年に税制「Section 174」の改正が行われ、研究開発費(R&D費)の即時損金算入ができなくなり、5年償却が義務化されました。この改正は、IT企業にとって実質的な税負担の増加を意味し、投資の冷え込みを招きました。結果として、テック業界の大規模なレイオフにもつながりました。

 25年7月にはこの制度が撤回され、再びR&D費の即時控除が認められることとなり、現在はテック市場の回復が期待されています。

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