50歳以上の精子、約25個に1個が変異 「子に発達障害やガンなどをもたらす可能性」 英国チームが発表:Innovative Tech
英国のWellcome Sanger Instituteなどに所属する研究者らは、精子の遺伝子変異を詳しく調べた研究により、父親の年齢が上がるにつれて子供に病気を引き起こす可能性のある変異が増えるという研究報告を発表した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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英国のWellcome Sanger Instituteなどに所属する研究者らがNature誌で発表した論文「Sperm sequencing reveals extensive positive selection in the male germline」は、精子の遺伝子変異を詳しく調べた研究により、父親の年齢が上がるにつれて子供に病気を引き起こす可能性のある変異が増えるという研究報告だ。
研究チームは24〜75歳までの男性57人から採取した精子サンプルを、NanoSeqという高精度のDNAシーケンシング技術で解析。ゲノム配列解析の結果、精子形成過程で特定の変異が選択的に増加し、子供の疾患リスクを高める可能性があることが明らかになった。
具体的な数値を見ると、30歳男性では精子の約2%(95%信頼区間:1.6〜2.5%)が疾患関連変異を保有していたのに対し、70歳男性では4.5%(95%信頼区間:3.9〜5.2%)まで上昇していた。50歳以上の男性では、精子の3〜5%(約100個に3〜5個)が何らかの病気を引き起こす可能性のある変異を保有していることが分かった。
精子では1年ごとに1.67個の遺伝子変異が生じる。これは血液細胞の8分の1程度の低い率で、精子を作る細胞が特別に保護されていることを示している。しかし問題は、単に変異が増えるだけでなく、ある種の変異を持った細胞が他の正常な細胞よりも速く増殖してしまうことだ。
研究チームは、このような増えやすい変異が起きる遺伝子を40個発見した。そのうち31個は今回初めて見つかったもの。重要なのは、これらの遺伝子の多くが子供の発達障害やがん素因症候群と関連していることだ。
なぜこのようなことが起きるのか。精子のもとになる幹細胞に特定の変異が生じると、その細胞が増殖競争で有利になることがある。正常な細胞よりも速く分裂したり、より多くの精子を作ったりするため、年齢を重ねるほど、こうした変異細胞が精巣内で占める割合が大きくなる。この現象は細胞にとっては有利だが、生まれてくる子供にはリスクを伴うことになる。
研究チームは生活習慣の影響も調査したが、喫煙や飲酒、肥満度は精子の変異率に明確な影響を与えていなかった。一方、血液細胞では喫煙や飲酒の影響が見られたことから、精子を作る細胞はこれらの環境要因から比較的守られていると考えられる。
この研究が示すのは、父親の年齢が高くなるにつれてリスクがこれまで考えられていたより大きいということだ。母親の高齢出産がリスクの面では注目されてきたが、父親側にも別のメカニズムでリスクが存在することを示唆した。
Source and Image Credits: Neville, M.D.C., Lawson, A.R.J., Sanghvi, R. et al. Sperm sequencing reveals extensive positive selection in the male germline. Nature(2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09448-3
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