検索
コラム

シニアエンジニアに捧ぐ「50代からIT転職」のリアル SES「案件採用」と、スタートアップバブル崩壊後の市場感(1/2 ページ)

「50代、60代でもIT業界で働き続けたい」──そう願うエンジニアが増える一方で、転職市場の現実は厳しさを増しています。転職したい50代、60代のエンジニアはどう振る舞うべきなのでしょうか。

Share
Tweet
LINE
Hatena
しごと発掘ラボ

 「50代、60代でもIT業界で働き続けたい」──そう願うエンジニアが増える一方で、転職市場の現実は厳しさを増しています。人材不足が叫ばれる一方で、実際の採用現場では年齢の壁が依然として高い状態です。その背景には、2021年ごろに訪れたスタートアップバブル後の反動、SES業界で広がる「案件採用」、そしてエージェント構造の変化といった複数の要因が重なっています。

photo
フリー素材(Adobe Stock)

 日本のIT業界では、特に23年以降は生成AIやローコード開発などの技術変化が激しくなっており、企業は新しいツールやフレームワークにすぐ適応できる層を求めています。そのため、経験が豊富でも「現場との技術ギャップ」があると判断されやすくなっています。

 マネジャーや役員の年齢も若い傾向にあり、彼らと比較した上での希望年収と年齢に対する期待値が高すぎることから50代、60代は不利な立場に置かれやすくなっています。この状況下で、転職したい50代、60代のエンジニアはどう振る舞うべきなのでしょうか。

著者プロフィール:久松 剛(エンジニアリングマネージメント 社長)

合同会社エンジニアリングマネージメント社長。博士(慶應SFC、IT)。IT研究者、ベンチャー企業・上場企業3社でのITエンジニア・部長職を経て独立。大手からスタートアップに至るまで約20社でITエンジニア新卒・中途採用や育成、研修、評価給与制度作成、組織再構築、ブランディング施策、AX・DXチーム組成などを幅広く支援。


スタートアップバブルがもたらした誤解と反動

 21年は日本のスタートアップ投資がピークを迎えた年でした。この時期、エンジニアに限らず「正社員を採用すること自体が投資」と考える企業が増え、経験豊富なシニア人材の採用にも積極的な動きが見られました。人手不足の中で、50代の受け入れに挑戦するスタートアップも少なくありませんでした。

 しかし、実際に活躍できたケースは多くありません。スタートアップは一見「自由でフラット」な組織に見えますが、実際には「若くて規律が未整備な職場」であることが多く、大企業で長く働いてきたシニア層にとってはカルチャーギャップが大きいのが実情です。経験や人脈を生かそうとしても、スタートアップのスピード感や意思決定スタイルに順応できず、結果的に短期間で離職してしまうケースも目立ちました。

 スタートアップ経営者には「PR材料を作り、時価総額を高めてイグジットを狙う」ことに注力していた人もいます。そのため、採用の段階で「シニア人材を迎え入れる」という表向きのメッセージを掲げていても、実際には長期的な活躍の場が設計されていない場合もあります。結果として、20年以降、短期間で転職を繰り返すジョブホップ型のシニア層が増加しました。

案件採用という“無給営業”の仕組み

 スタートアップの採用熱が冷める一方で、SES業界では別の問題が生まれています。それが「案件採用」と呼ばれる仕組みです。これは、最終面接で合格が出た後、正式な入社前から営業活動が始まるというものです。従来のように「入社後に営業開始」するのではなく「面接合格後、案件が決まるまで無職のまま営業する」という形態が増えています。

 背景には、企業側による採用リスク回避の流れがあります。案件が獲得できなければ給与を発生させずに済むため、雇用側にとってはコストを最小化できる仕組みです。人材紹介会社経由でもこうした案件採用が紹介されるようになり、候補者がリスクを負う構造が常態化しています。実際、50代・60代のエンジニアが「営業中」という名目で数カ月間無収入のまま過ごすケースも増えています。

 かつては、営業期間中のみ契約社員として雇用する制度も存在しました。しかし現在の主流は、案件が決まるまで完全に雇用契約が存在しない状態です。さらに、フリーランスエージェントを覗(のぞ)くと「短期間だけ働きたい」という登録者も一定数見られます。本来は独立したプロフェッショナルを支援する仕組みであったはずのフリーランスエージェントが、いまや“期間限定労働者”の受け皿になっている側面もあります。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

       | 次のページへ
ページトップに戻る