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“DRAMパニック”はなぜ起きたか、価格はいつ落ち着くのか? 狂騒の裏で起きていること(2/5 ページ)

世をにぎわす“DRAMパニック”はなぜ発生し、いつ終わるのか?

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「Contract」と「Spot」、2つの取引形態

 この生産計画に大きな影響を与えるのが、「Contract」と「Spot」という2つの取引形態だ。Contractというのはメモリベンダーと顧客(サーバやスマートフォン、グラフィックボードなどのベンダー)との間で、提供期間と数量、価格を事前交渉の上で決める。通常は1四半期〜1年位の期間の間、毎月一定量を定められた価格で納入するという形だ。実のところサーバ用メモリやLPDDR、GDDR/HBMなどほとんどのメモリは、例外はあるもののほぼこのContractの形態で取引される。

 理由は簡単で、これらを必要とするユーザーは一般の消費者では無いからだ。例えばHBMであれば、現在はAIチップないしサーバ向けGPUに実装される形で出荷されるので、各メーカーは自社の製品計画に基づいてメモリメーカーにHBMを発注し、組み立て工場(OSAT:Outsourced Semiconductor Assembly and Testと呼ばれる半導体の後工程を担う企業のFab)に納入してもらってチップを完成させる。

 これはスマートフォン向けのLPDDRやコンシューマー向けのグラフィックボードでも同じだ。このContractは、メモリメーカーにとっては発注量が確定するので生産計画を立てやすいというメリットがある。DDRについても、サーバあるいはメーカー製PCなどの生産量が確定しているものは、Contractの形でメモリメーカーから直接仕入れるのが一般的だ。

 もう1つがSpotだ。即時取引と言えば分かりやすいだろうか? メーカーとは別に、商社や代理店などによって形成されるDRAMマーケットというものが存在する。メーカーはここに、Contractによらない製品(例えば生産の関係で作りすぎてしまったもの)や、場合によっては正常に動作はするがテストに落ちたもの、相性の問題などでそもそも正常に動作しないものを非常に安い値段で卸す事がある。不良品として捨てるより、わずかでも売り上げにつながれば有難いからだ。

 秋葉原の店頭で並んでいるDRAMは、このSpotマーケットで流れているものが非常に多い。もちろんメモリメーカーによっては、製造工程側の都合である程度このSpotに流すことを前提に生産する場合もある。

 また、Contractは最初に金額を決めての取引になるので、市場でDRAM価格が高騰してもメモリメーカーにはうま味が無い。ところがSpotだと即時取引なのでDRAM価格の高騰に応じて売上が伸びる。逆に下落時は売り上げが下がる訳だが。

 現状発生しているのは、Spot価格の高騰だ。下記は「DRAMExchange」という、DRAMの価格を追跡している情報サイトの12月10日付のデータだ。

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左がSpot枠でこちらはDRAMチップ単位の価格、右はDIMMモジュール単位の価格

 右側を見るとDDR5の8GB SO-DIMMのContract価格は平均33.50ドルほど。8GBのSO-DIMMは、16GbitのDDR5チップ×4で構成できる訳だが、そのDDR5 16Gbitチップの単価は左側を見ると26.267ドル。つまりSpot市場でDDR5チップを仕入れて8GB SO-DIMMを構成しようとするとDDR5チップの価格だけで105ドルを超えるわけだ。このSpot市場の高騰が、11月に入って突如発生したメモリの品薄・高騰の直接的な要因である。

 ではなぜSpot市場が価格高騰しているかといえば、恐らくContract市場に異常が発生しているからだ。具体的に言えば、恐らくメモリメーカーに対してDDR5チップの生産能力を超える量のContractの要求が殺到。当然全部の要求は受け入れられないので、一部契約に関しては納期の遅延が発生する。

 するとどうなるかと言えば、もちろん遅延した納期を待ってなんぞいられないので、Spot市場でDDR5チップをあさるしかない。先ほども説明したがSpot市場といっても品質は玉石混交である。ただメモリメーカーが生産調整などの都合で放出する分についていえば、品質はContractのものと変わらないから、代理店やその上流のDRAM商社などから直接そうしたものを(恐らく多少のプレミアを付けて)買いあさらざるを得ない。こうなるとSpot市場でDDR5が更に高騰するのは避けられない。

 ではなぜContract市場に異常が起きたのか? あるいは、なぜサーバメーカーその他はContractを通常より増やさざるを得ないのか? という話になるが、筆者は基本的にはPanic Buy、つまり“狼狽買い”と考えている。

 コロナの時のマスク不足を思い出していただければ分かりやすい。EE Times/TechFactoryの記事執筆時点では「Panic Buyのきっかけは何か?」は不明だったので、例としてGPUメーカーがちょっとだけ増産を仄めかし、それにサーバメーカーが過剰反応を示したというシナリオを提示した。ただ、原稿執筆後に伝わってきた話では韓国Samsung及び韓国SK Hynixが米OpenAIと結んだ契約がきっかけではないか?というシナリオが現在は有力視されている。

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