脳のオン/オフ切り替えは鍛えられる──イメトレで実際の運動能力向上に成功、慶應大がPNASで発表:Innovative Tech
慶應義塾大学に所属する研究者らがPNASで発表した論文「Brain-computer interface-based neurofeedback training enables transferable control of cortical state switching in humans」は、ブレイン・コンピュータ・インタフェース(BCI)を活用し、イメージトレーニング(イメトレ)中の脳状態を可視化することで、実際の運動能力を向上させることに成功した研究報告だ。
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2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
慶應義塾大学に所属する研究者らがPNASで発表した論文「Brain-computer interface-based neurofeedback training enables transferable control of cortical state switching in humans」は、ブレイン・コンピュータ・インタフェース(BCI)を活用し、イメージトレーニング(イメトレ)中の脳状態を可視化することで、実際の運動能力を向上させることに成功した研究報告だ。
これまで、頭の中で運動を思い描くイメトレを行っても、本人やトレーナーが実際の脳の状態を把握することは困難だった。しかし、本研究では頭皮脳波計とAIを用いることで、脳内に電極を埋め込むことなく、脳内状態をリアルタイムで可視化することに成功した。
本研究が脳状態の可視化において着目したのが、「感覚運動リズム」と呼ばれる脳波成分だ。これは脳内で体の動きを司る運動野の近くで計測される8〜30Hzの脳波。体がリラックスした安静時には神経細胞が同期して活動するため振幅が大きくなり、逆に運動の準備や企図、実行した際には活動が脱同期化して振幅が小さくなるという特徴を持つ。つまり、実際に体を動かさなくても、頭の中で「右手を動かす」と強くイメージするだけでこの脳波は変化する。
研究チームはこの性質を利用し、イメトレ中の脳のオン(運動イメージ)とオフ(リラックス)の状態を感覚運動リズムの強弱として捉え、リアルタイムで画面上の赤いバーの動きに変換して参加者に提示した。
実験では、高密度頭皮脳波計を装着した参加者の右手に電動装具を取り付けたうえで、画面のバーを見ながら、自らの意思で脳の状態を素早く切り替えてバーを目標位置へと動かす訓練を2日間行った。その際、自身の本物の脳波を提示されるグループと、他者の脳波による偽の映像を見せられる対照グループに分け、二重盲検ランダム化比較試験による検証を実施した。
その結果、本物の脳波を見て訓練したグループは、自らの意思で脳の状態を切り替える能力が有意に向上することが確認された。反対に対照グループは確認されなかった。
さらに、この能力がBCIを外した状態でも維持され、実際の運動パフォーマンスにも好影響を与えた。具体的には、筋肉を素早く収縮させる反応時間や、力を抜いて弛緩させる際の反応時間も短縮されることが確認された。これは、訓練によって脳内の広域なネットワークが再編成され、行動の柔軟性が高まったことを示唆している。
従来のテクノロジーを用いたトレーニングは、心電図や心拍、筋電図などの体の反応を計測するものが主流で、訓練にはジムや競技場、道具といった物理的な環境が必要だった。しかし、今回の技術を用いれば、全身の筋肉に指令を送る脳そのものを直接鍛えるため、時間や場所にとらわれることなく人間の能力を拡張できる可能性がある。
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