不動産会社が今もFAXを手放せない理由 DXを阻む“紙と零細”の壁:不動産とITのナゾ(2/2 ページ)
他の業界では常識なのに、不動産業界では非常識。そんな不動産の「ミステリー」を専門家がわかりやすく読み解き、AIをはじめITを活用した不動産の近未来を探る。第2回は「なぜいまだに不動産取引でFAXが使われるのか」を深堀りする。
9割を占める零細業者もDXの妨げに
なぜ不動産業界は突出してFAXの利用率が高いのか。理由の一つは一般の事業会社と比べて取引関係者が多いことだ。
不動産のオーナー、部屋を借りる人、仲介会社、管理会社、銀行、保険会社、保証会社、司法書士……。ざっと挙げただけでもこれだけの関係者がいる。このうち1人でもFAXでしかやり取りできない人がいれば、FAXを使わざるを得ない。特に不動産オーナーは、高齢の個人が少なくない。こうした人たちは、読み慣れている「紙」が送られてくるFAXを使うケースが多いという。
不動産業界では、間取りの図面やパンフレットなど、紙に印刷されている資料が多い。FAXなら紙のまま送信できるが、メールで紙の資料を送るには、PDFなどに変換する必要がある。ITや電子機器に苦手意識を持つオーナーは、「不動産の資料をプリンターでスキャンしてPDFに変換する」といったプロセスを敬遠しがち。若いときにIT機器を見たことがなかった高齢のオーナーならなおさらだ。その結果、紙のまま資料を送れるFAXを手放せなくなっている。
業界再編が進んでいないことも不動産業界のデジタル化の妨げになっている。総務省の経済センサスによると、従業員4人以下の不動産業者の比率は全体の86%、9人以下は95%に達する。家族だけで運営する「パパママ」不動産も多く、IT人材の確保やデジタル化に向けた設備投資の余力も乏しい。仮にインターネットやWi-Fiに障害があってもFAXには影響が小さいこともあり、不動産会社ではなお重宝され続けている。
不動産業界のDXはじわり進むが……
もっとも、このまま不動産業界がローテクのまま取り残されてもいいという声は少ない。少子・高齢化を受けた人手不足や競争激化を背景に、不動産会社も事務手続きなどの効率化を迫られているからだ。AIによるPDFの読み取りやデータ分析・予測など可能性が広がる中、資料を紙のまま使っていれば技術革新の恩恵は受けられない。新たな技術を活用できなければ、既存事業の縮小や新規事業の進出の妨げにもつながる。
AIをはじめとした最新技術をより活用できなければ、顧客にもデメリットがある。現状では、管理会社がFAXの情報をシステムに入力する時間がかかる上、転記ミスも起こりかねない。FAXを送る時間も1枚につき1分程度かかる。非効率な業務の結果、申し込みから入居までに1カ月程度かかるケースもままある。デジタル化が進めば、入居までの期間は1週間程度に短縮される可能性もある。データがデジタル管理されれば、すでに契約済みの物件(おとり物件)も賃貸サイトに掲載されづらくなる。
実際、不動産業界ではSaaSを活用し、FAXなど旧来型のシステムから脱却する動きも出始めている。マンションの借り手がネット上で個人情報を送ったり、不動産仲介会社がネット上で24時間、賃貸契約を申し込んだりするシステムも一部では普及しつつある。不動産業界の人手不足解消やDXという大きなテーマのカギは案外、19世紀に発明された通信手段からの脱却が握っているのかもしれない。
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