「作れば売れる」時代の終わり――岐路に立たされるアニメ業界、決算が映す各社の“明暗”を分けたもの:まつもとあつしの「アニメノミライ」(1/3 ページ)
ここ数週間で出そろったアニメ関連企業の決算が、業界に静かな衝撃を広げている。市場規模は4兆円に迫り過去最高を更新する一方、KADOKAWAは出版事業の業績悪化が伝えられ、制作現場では債務超過も相次ぐ。「配信バブル」に支えられた成長は、ついに潮目を迎えたのか。アニメビジネスの第一人者・数土直志氏とともに、決算の数字から業界の地殻変動を読み解く。
ここ1〜2週間で出そろったアニメ関連企業の決算が、業界に静かな衝撃を与えている。取材の場でもKADOKAWAの業績悪化は繰り返し話題に上り、「何かが変わった」という感覚が業界関係者の間に広がっている。
KADOKAWAやポニーキャニオンに加え、TBSグループのアニメ事業部門や、ABCアニメーションといったテレビ局系のアニメ関連会社、さらにはTVアニメ『ウマ娘』(3期)などを手掛ける制作スタジオ「スタジオKAI」までもが、相次いで赤字や大幅減益を計上したのだ。あわせて、東宝や東映アニメーションといった映画会社のアニメ・IP事業部門の決算も出そろい、業界内の明暗がくっきりと分かれている。
日本動画協会アニメ産業レポート2025(2025年12月)によれば、広義のアニメ産業市場は海外市場の大躍進にもけん引され、3兆8407億円と4兆円に迫る規模へと拡大を続けている。
アニメ産業市場(広義)は2024年に3兆8407億円と過去最高を更新。海外市場が全体の56.5%を占め、国内市場を初めて大きく上回った。(出典:日本動画協会「アニメ産業レポート2025」サマリー版 P.4 資料1)
しかし、一連の厳しい決算が示しているのは、そうした表向きの売上規模の拡大と、中身の厳しさのギャップだ。現在のアニメ業界を覆う「配信バブル」とも呼べる成長局面は限界を迎え、戦略転換のフェーズに入ったのか。そして、この調整局面は業界にとって何を意味するのか。
アニメーションビジネス・ジャーナリストの数土直志氏とともに、各社の決算を読み解きながら、業界構造の変化を考えた。
制作費は上がった。でも回収できていない――共通する構造問題
今回の決算を一覧すると、厳しい業績の企業に共通する構造が見えてくる。制作費の高騰と、その回収手段の限界だ。
アニメ制作の現場では、人件費を含む制作コストが上昇している。その背景には、慢性的な人手不足に加え、作品数の増加が拍車をかけている現状がある。日本動画協会アニメ産業レポート2025によれば、2000年代初頭に年間約100本だったTVアニメの制作本数は、近年約300本へと大幅に増加している。
また帝国データバンクの2025年最新調査でも、アニメ制作市場は過去最高の売上規模を更新する一方、人手不足や外注費高騰による「利益なき繁忙」に陥り、制作会社の倒産・休廃業の増加傾向が指摘されている。
コスト上昇自体は、スタッフの待遇改善という意味で歓迎すべき変化でもある。問題は、増えたコストをどこで回収するかだ。
配信バブルとも言える状況下で、プラットフォームへの配信権ライセンス料は上昇し続けてきた。それが収支を支えていた側面は大きい。事実、全額から8割程度の制作費を配信ライセンス収入だけで賄えるケースも存在していた。中には、MAPPAが手掛けた『チェンソーマン』のように、制作会社自らが制作費の100%を出資することで配信を含む作品の権利を確保し、独自にビジネス展開する例も現れている。
だが、業界全体として見ればプラットフォームからの買い付け額が上昇し続ける流れは頭打ちになりつつある。数土氏はこう指摘する。
「制作費が上がったときに、それをどこで回収するかが問われる。今まで配信会社の買い付け金額が上がることで賄えていたが、それだけでは限界がある。不足分を補うのは二次展開――海外への販売、商品化、イベント化――しかない。そこが得意な企業は作品を大きなビジネスにできるが、苦手な企業はコストだけが膨らんで採算分岐点が上がっていく」
加えて、配信プラットフォームとの交渉力の差も収益格差を生んでいる。強いコンテンツを持つ企業は高く売れる一方、そうでない企業はライセンス料の引き上げに応じてもらえないという、非対称な構造が生まれている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
